リクエスト小説
□「好き」の心をもう一度
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――ああ、これは夢だ。
あの時の夢。
“「…べつに、すきじゃない。あんな『いじん』で『ぼうりょくてき』なやつ。」”
…なんて、嫌な夢。
***
ピピピピッ――
カチッ
「…朝、」
目覚まし時計を止めて、窓を見てみる。閉ざされたカーテンに遮られながらも、確かに明朝の太陽光がカーテンの隙間から溢れだしていた。チュンチュンとさえずる鳥は、スズメだろうか。
「ツナー!もう朝よ!起きなさい!」
1階から、母親が自分を呼ぶ声が聞こえる。時計の針を見てみると、時刻は7時30分過ぎ。どうやら自分は珍しく、いつもより少し遅く起きてしまったようだ。
…まぁ、どうせ『いつも通り』遅刻して行くつもりだからどうでもいいが。
「ツナー!!」
「もう起きたよ、母さん!」
流石にもうそろそろ起きなければ、母親から怒鳴られる。いつもは温厚な人なのだが、怒らせると怖いのだ。
ハンガーに掛けてある制服を急いで身に纏い、1階へと向かう。
「…それにしても、さっきの夢…」
どうして今頃、あんな小さな頃の夢を見たのだろうか。
「…今日は朝から最悪だ。」
沢田家の一人息子である、沢田綱吉はため息をつきながら階段を降りた。
―――
キーンコーンカーンコーン…
ガラッ!
「す、すみません!遅れました!!ι」
「…はぁ、今日も遅刻だな。沢田綱吉。」
いつもの如く朝のチャイムが鳴り終わると同時に教室へと到着した少年に、担任の教師はため息をつきながら生徒名簿に遅刻の文字を書き込む。
「せ、先生…ιす、すみません!!」
「もういいから座りなさいι」
急いで席へと向かう少年の足下に、とある男子が足をいきなり出して少年を転ばせるのも、そこでクラス中が笑い出すのもいつものこと。
ここ『並盛中学校』にて、「ダメツナ」として有名な少年、沢田綱吉が赤い顔で席につくことは、確かに『いつも通り』の朝の風景であった。
中休み――
「ねぇねぇ!聞いた?隣のクラスに、今日の昼過ぎ転校生が来るみたいよ!」
「今の時期に?時期外れな転校生だね〜。しかも、何で昼過ぎ?」
「なんか、隣のクラスにいる友達の話では、『家庭の事情』ってやつらしいよ。」
「へぇ〜。」
「女子って、ああいう話好きだよなー。あ、ダメツナ!今日の放課後、掃除当番変わってくれね?今日家に従兄弟が来るから早く帰らねぇといけねぇんだよ〜。」
「え…う、うん、別にいいよ。」
「やりィ!サンキューな!」
中休みになると、様々な喧騒が教室に響き渡る。
髪をボサボサに伸ばして眼鏡をかけた顔をいつも下に向けている、暗い印象をもつ少年、綱吉に声をかける生徒は殆どいない。唯一声をかける時は、大抵何か頼み事をするときである。
大抵休み時間になると、綱吉は一人窓の向こうに漂う雲と青空とをひたすら眺めていた。
「…転校生、か。」
ボソリと呟いた声は、休み時間特有の生徒たちの喧騒に紛れて消えていった。
「そういえば、さっき転校生到着したみたいよ!」
「じゃあ、このH.Rが終わったら、見に行こうよ!」
「こら、そこ!喋るのは後にしなさいι」
放課後のH.R。
教師の長い話が終わるのを今か今かと生徒たちが待ちわびる。
しかし、次の瞬間誰もが驚きの表情を浮かべる事となる。
教師の話が中盤に差し掛かろうとしたその時、突如としてクラスの扉がガラリと開いたのだ。
「……」
クラス全員がいきなりの事態に扉の方向に目をやると、一人の少年が立っていた。
黒い髪に鋭い瞳。整った顔をしている少年が身に纏っているのは、他校の制服である黒い学ラン。
「な、なんだ君は!!今はまだH.Rの途中だ!出ていきなさい!!」
「…うるさい。」
「なんだと?!」
学ランを来た少年は怒鳴る教師を無視して教室に入ると、真っ直ぐ窓際の席へと向かう。