リクエスト小説
□月と烏と少年と
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※烏天狗なバリ様×霊感(?)体質なスレツナ君のパラレル
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『…へぇ。今の世で、これほどの力を持つ人間も珍しいね。』
『…誰、ですか?』
よく、憶えている。満月がとても美しい夜だった。まだ幼い少年であった彼は、廃れた神社の境内に一人ぽつんと立ちながら、ただじっと満月を見つめていたのだ。
…異形の姿をした存在がすぐ後ろに居るというのに、満月から目をそらさずにただ静かに佇んでいたのである。
『ねぇ。そんなに無防備でいると、喰われてしまうよ。』
背中に漆黒の翼を生やした青年は、くつくつと笑ながら目の前の少年に話しかける。楽しそうに、愉しそうに。
しかし、少年の発した言葉に青年は黙り込む。
『貴方は、「そんなつもり」全くないでしょう。』
だから、平気です。
『…確かにね。喰らうつもりなら、とっくにやってる。』
溜息をつくという、青年にとっては珍しい行為をする。それ程までにこの少年は扱いづらかった。
『そんな事より、こんな時間に一体何をしてるんだい?君みたいな人間は、特に危険だろう。』
『…だから、ここにいるんです。だって、ここなら俺だけを狙うでしょう?』
もう、誰も巻き込みたくはないのだと無表情で少年は青年へと振り返る。
琥珀色の瞳から一滴の涙が頬を伝い、青白い月光の光を反射して輝きながら流れ落ちた。
…惜しい、そう思った。
思えば、自分はこの瞬間に心を奪われたのだろう。
考えるよりも先に、口が開く。
『いらない命ならば、僕が貰い受ける。』
少年にとって、その言葉は予想外だったのだろう。少年は目を見開きながら、青年を見つめた。
『…何を言って…』
『僕は君が気に入ったし、君はいらないと言う。なら、僕が貰い受けてもいいだろう?』
青年は少年に近付くと、目線を合わせるように膝をつく。
うろたえる少年の、まだ濡れている頬を右手でなぞりながら囁くように尋ねる。
『いらないのなら、僕に頂戴?』
その代わり、僕が君を守ってあげる。
『…随分と、物好きな妖怪ですね。』
一瞬目を伏せた後、苦笑する少年に対してうるさいよと青年はそっぽを向く。
…この妖怪ならば、いいかもしれない。少年はそう思った。だって、この妖怪からは全く嫌な気配がしないのだ。
だからこそ、少年は青年に対して「是」と頷いた。
『僕の名は「恭弥」。…姓はない。ただの「恭弥」だ。君の名は?』
『…沢田綱吉、です。』
青年、恭弥は少年、綱吉の名を何度か口ずさむと、一度頷き、綱吉を抱き上げる。
『うわ?!』
『うん、決めた。これから、身を守る術も、相手を下す術も、全部教えてあげる。面白そうだしね。』
『あ、ありがとう、ございます?』
『礼儀正しい子は好きだよ。』
面白そうに、しかし嬉しそうに笑いながら恭弥は告げた。
『今から君は、僕のものだ。』
***
青白い満月、穏やかな風、草花の匂い。
この日から数年経過しても、恭弥はこの日の出来事を決して忘れなかったし、これからもきっと幾度となく思い出すのだろう。
幾度でも、幾度でも―――
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