記念部屋

□『白』『黒』の世界
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「…君、は…悪魔族…?」

「…貴方は、天使族…ですか…」



地上、つまり人間界の黄昏時に出逢った対称的な存在。


片方は白い装束を身に纏った黒髪、黒目の青年。

もう片方は黒い装束を身に纏った鳶色の髪の青年。


二つの存在は人間界において『異質』であった。何故ならば、それぞれの存在の背にはやはり対称的な『白』と『黒』の翼が生えており、現在進行形で空中に浮かんでいるのである。

紛れもなく、彼らは『人間』ではなかった。




「…まさか、こんな所で悪魔族の者に会うとはね…流石に驚いたよ…」



『ここ』は人間界とはいえ、一応『聖域』だよ?



「…俺だって、まさかこんな時間に天使族の方に会うなんて…思ってもみませんでしたよ…」



『今』はもう魔の者達が自由に動く『逢魔ヶ刻』ですよ?



しばらくの間、互いにただ見詰めあっていたのだが飛び続けるのも疲れる為、ほぼ同時に地面へと降り立った。

辺りはもう闇であり、満月だけが地上を照らす唯一の光だ。


「…悪魔族が、この『聖域』に何の用だい?例え悪魔族の活動時間である夜だとしても、ここでは力だって思う通りに出せないだろう?」

「…貴方の方こそ、こんな時間に何の用ですか?天使族の活動時間は朝と昼。例え『聖域』だとしても、夜に地上へと降りて来れば貴方こそ力を引き出せないでしょう。しかも今日は満月ですよ。」



一定の距離を保ちながらも、互いに相手を睨み付ける。


天使族と悪魔族は、それこそ世界が造られた『始めの日』からずっと敵対している。

互いに活動時間も生きる世界も、何より性質も異なる為、決して相いれる事はない。


天使族はいわゆる『天界』と呼ばれている空の異空間に住んでおり、悪魔族は『魔界』と呼ばれる地下の異空間に住んでいる。

通常は活動時間の違いもあり、天使族と悪魔族が会う事など不可能に近い事なのだが――





「理由はどうあれ、ここにいる悪魔を野放しにはしておけないね。」

「…そうですか。でも俺だって簡単に殺られる訳にはいきません。」


天使 は銀色に光るトンファーを、悪魔は両手にグローブを嵌めてそれぞれ構える。


月が雲に隠れて辺りが真に闇となった瞬間、トンファーから紫色の炎が、グローブから橙色の炎が灯されたと同時に二つの影が激突した。




***


空の異空間に佇む天使族の世界――


『天界』の中心地には白と金色に光るとても立派な造りの宮殿が建っている。

宮殿の周囲にはやはり白い家々が建っており、宮殿と家々を囲むように巨大な壁が巡らされている。
壁の向こう側は木々が生い茂っており、白い鳥達が飛びかっている。

空中には小さな島々が浮かんでおり、島には巨大な水晶のようなものが生えている。島からは滝のように水が流れ落ち、虹がかかっていた。


そこはまさしく天使が住む場所としてだれもが相応しいと思うほどの美しさを誇っていた。

しかし、普段穏やかな筈の宮殿内部では焦ったような声が響き渡っていた。



「いない?!それはどういう事ですか!!」

「わ、分かりません!!お部屋にいらっしゃらず探したのですが…どうやら宮殿の中にもいらっしゃらないようで…ι」

「部屋の前に立たせていた親衛隊は…聞くまでもないでしょうね…」

「はい…ι親衛隊はほとんどの者達が倒されたもようで…ι」

「はぁ…全くあの方はι…分かりました。貴方は親衛隊の方々を手当てした後、通常業務に戻りなさい。あの方なら、しばらくしてふらりと戻ってくるでしょう。」

「はっ!」


退席するのを見送ると、藍色の髪の天使は再びため息をついた。


もうこれで何度目だ。彼は果たして自分の立場を理解しているのだろうか。


「彼が大人しく宮殿にいるような性格でない事くらいは分かってはいるのですが…」

「…骸様…」


頭を押さえている青年の近くに、心配そうな表情をした一人の女性が近付く。


「凪…大丈夫ですよ。あの方は天使族の中で一番強い。なんせ天使族のトップですからね。そうそう野垂れ死にはしません。」
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