捧げ物部屋

□秘蜜
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つまらない――――



夜の町を『見回り』と称しながら歩く少年、雲雀恭弥は自らの獲物であるトンファーを振り回しながら欠伸を一つこぼした。

彼の目の前には、先ほど沈めたばかりの不良達が倒れている。

深夜にバイク音をけたたましく鳴らしながら騒ぐ、所謂『暴走族』と言われる連中がたむろしているという情報を掴み、恭弥は嬉々としてのりこんだのだ。

だが、少しは楽しめると思ったものの、皆弱くて期待外れ。恭弥が現れた時点で逃げ出そうとした者もいたくらいだ。


「ただ群れてるだけの草食動物が。二度と僕の街に現れないでくれる。」


不良達のトップだった男を蹴り飛ばした後、恭弥は踵を返す。


「…つまらない。もっと、楽しめるものがあったらいいのに。」


恭弥はトンファーを仕舞うと、不機嫌そうにその場を後にした。





「…ん?」


風紀委員に不良達のかたずけを命令した後、恭弥は自宅に帰ろうとしていたのだが、ふと違和感を感じ、立ち止まる。


「…血の匂い?」


そう、『血』の匂いを微かに感じたのだ。


「…へぇ。」


気が昂る中での血の匂いに些か高揚を感じながら、血の匂いがする方へと向かう。どうせなら、何か自分が楽しめる事態に転べばいいと思いながら――



「ワォ…。」



血の匂いの大元にたどり着くと、恭弥は感嘆した。そこには不良達が倒れており、辺りにはひしゃげた鉄パイプやら金属バットやらが転がっている。倒れている不良達の数は、先ほど恭弥が沈めた不良達よりも多い。鉄パイプやらは、いまだにそれらを握りながら気絶している不良達もいること、そしてその無数の数から、どうやらこの不良達が所持していたものらしい。


「へぇ…面白い。」

恭弥は、自分の口角が上がるのを感じた。


面白い。


不良同士の抗争がある等というふざけた情報は入って来なかった。なら、これは抗争なんかじゃない。

ならば、これはどういう状況なのだろう?


「この状況を作った犯人、必ず見つけ出す。」


その犯人は、自分を楽しませてくれるのだろうか?


久しぶりに感じたこの高揚感、犯人を見付けるまで続きそうだ。


恭弥は携帯にて風紀委員に連絡をいれると、一つ二つ指示を出し、とても愉しそうにその場を後にした。






***




並盛中学校には、二人の有名人がいる。

一人は並盛中学風紀委員長、雲雀恭弥。
彼は並盛町の裏の支配者とまで呼ばれている少年であり、彼の名を知らぬ町人など皆無であると断言出来るほどの有名人である。

『群れる』人々を見ては嫌悪感を抱き、自らの獲物であるトンファーを使っては群れた人々を『咬み殺し』ている危険人物だ。

並盛をこよなく愛し、彼の定めた規律を乱す者には例外なく制裁を下すという行動から、不良のトップとまで言われ、恐れられている。



そして、もう一人の有名人の名は、『沢田綱吉』。彼は、恭弥とは違う意味で有名な少年である。


どういう意味かと言われると…





「…そっちいったぞダメツナ!!」

「う、うん!わわっ!ι」




ズルッ!ドテッ!




「何にもないところで転びやがった!!」

「またかよ、ダメツナ!!」




宙に舞う野球ボールは転んだ少年の頭上を通りすぎ、彼から約1メートル離れた地点に落下。


周囲からは落胆の声や歓声、笑い声まで聞こえてくる。


「ホンットにダメダメだな、お前は!!」

「…ご、ごめん…。」



砂まみれになっているこの少年こそ、二人目の有名人こと沢田綱吉である。


彼は何をやってもうまくいかない、頭も悪い、運動神経も全くないということで、通称「ダメツナ」と呼ばれている。



しかし、そんな彼にもたった一つ、隠し続けた「秘密」があった。





この対称的な二人の少年は、今のところ全く接点がないのだが…


***


これは、ある一人の少年が隠し続けなければならなかった一つの「秘密」と、その「秘密」を知ってしまった少年との“出逢い”の物語――



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