10万打記念部屋

□花見をしましょう三人で!
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  「お花見に行きましょう!!」

  「「…は?」」

暖かく、うららかな春。

いつもの如くティータイムを楽しんでいた綱吉と恭弥は、ドアを開け放つと同時に先の一言を言いながら応接室に乱入してきた骸に眉をひそめる。

  「いきなり何を言い出すのさ、骸。ここからでも充分校庭の桜が見えるだろう。」

  「なんで僕が、群れている草食動物の中にわざわざ入らなきゃいけないのさ。」

  「…お二人とも、僕がいきなりこの部屋に乱入した事には触れないのですね…一応気配は消したのですが…;」

骸は苦笑しながらソファーに座り、差し出された紅茶を有難くいただく。やはり、恭弥が淹れた紅茶は絶品だ。

  「勿論、花見客が沢山いるような場所には誘いませんよ。お勧めの穴場を最近見付けたんです。」

たまには三人でゆっくりと、季節の風物詩を楽しみに行きませんか?と骸は二人を誘う。


春休みにもかかわらず、並盛中学の応接室にて風紀の仕事をしていた恭弥。そして、特別補習という名のもと並中に登校していた綱吉。


二人はお互い、いつもなにかしらある用事を終わらせると、人払いをした応接室にて、恭弥が淹れる紅茶と綱吉が用意する茶菓子でデートまじりのティータイムを行う。

そこにいつだったか、恭弥に用があった為に並中にたまたま居た骸も誘われ、今では三人一緒になってティータイムを楽しむ、というのがお決まりとなっている。

数日経った頃、流石に仲睦まじいカップルの中に自分が入るのは邪魔だろうと考えた骸は、さり気なく二人にデートでも行ってみたらどうかと進言した事がある。だが、二人にサラリと「デート?今してるけど?」と返された時には流石に頭を抱えてしまった。どうやら二人にとっては、骸が居ても全然構わないらしく、かえって味が合わないのかと勘違いされ、好みの菓子やら茶葉の種類やらを聞かれてしまった。二人の事は友人として好きなので嬉しくはあるのだが、好きであるが故になにやら複雑である。

骸は妙な所で人とズレている二人を思い、世間一般が行うようなデートをして欲しいと考えた末、今回の花見を思い付いたのだ。

場所を案内する為に最初は骸も参加するが、少ししたら勿論二人きりにするつもりだ。

骸のただいまの気分は、二人の見合いをあれこれ準備する親である。

  (…抜ける時は二人になんて言いましょうか…流石に「後は若いお二人で」なんてのは寒いですよねぇ…)

にこやかな笑顔の裏でそんな事を考えながら、骸は目の前でキョトンとした表情を浮かべている二人を花見へと誘うのであった。


***

  「うわぁ…確かに凄い。」

  「…へぇ。こんな場所が黒曜にはあったのか。」

並盛の隣町である黒曜は、骸のテリトリーである。その為、大きな商店街を抜けた先の薄暗い路地裏を何回か通っても綱吉と恭弥は全く心配してはいなかったが、流石に閑静な住宅街を抜けたすぐ傍に、こんなに多くの桜に囲まれた空き地があるとは思わなかった。

360度桜に囲まれており、近くに高いビルもないのでコンクリートに遮られていない青空がとても綺麗だ。木で作られたベンチもあり、確かに花見にはうってつけの場所である。ちらほらと子ども向けの遊具が設置してあることから、近くの住宅地に住む子ども達の遊び場として存在しているようだが、人の姿は全くない。どうやら、最近の子ども達はこの公園めいた空き地よりも、少し先の学校や商店街の方で遊んでいるらしい。

だが決して雰囲気が暗いとか空気が淀んでいるとかではなく、むしろ日当たりは良くて暖かいし空気は澄んでいる。人で溢れたそこらの桜の名所よりもよっぽど良い場所で、矛盾ではあるが、人に知られていないのが勿体無いと思える程だ。

  「そんなに広くはないけど、確かに良い場所だ。」

  「恭弥君にそう言って貰えるとは誇らしいですね。気に入っていただけたようで安心しました。」

今はもう完治したサクラクラ病の後遺症で桜嫌いになっていた恭弥も、この美しい光景には満足したらしい。綱吉が傍にいる為そこまで不機嫌になる事はないだろうが、少しばかり心配していた骸としては内心些か安堵した。

  「二人とも!お腹も空いたし、お弁当食べようよ!真上も桜だし、綺麗だよ!」

少し頬を紅潮させながらベンチに座り恭弥と骸に手を振っている綱吉に更に癒されながら、恭弥は骸を振り返る。

  「綱吉が呼んでる。君も早く来なよ。」

  「…いえ、僕はここで失礼します。お二人の事ですから、道はもう覚えたでしょう?たまには僕抜きにして、二人で楽しんでください。」

ああ、これで少しは二人の時間に貢献出来た!と満足気に立ち去ろうとする骸に、恭弥は軽く足払いを仕掛ける。いきなりの事によろめきながらも持ち前の反射神経でなんとか立ち直ると、骸は批難を込めた視線を恭弥に送った。

  「ななな、何するんですか!いきなり危ないじゃないですか!」

  「君が馬鹿馬鹿しい事を考えているからだろう。」

半ば呆れたような顔で恭弥は骸を軽く睨む。

  「二人きりで過ごしたいなら、はじめから君を間にはいれない。」

勿論二人きりが嫌というわけでは絶対ない。骸の気遣いにも感謝している。…これは絶対口にはしないが。

それでも三人でいる空間を気に入っているのだから、ここで一人をのけものにする必要性を全く感じない。

  「何より君が今居なくなったら、綱吉が気にして楽しめない。」


目の前で腕を組み、三人で過ごすのが当然と言わんばかりの少し…いや、かなり気難しい友人を呆然と骸は眺める。

  「…よく分かりませんが、こういう時は黙って去るのが友人である僕の役割りなのでは?」

  「そういう気遣いははっきり言って邪魔だよ。鬱陶しい。」

キッパリとそう言う恭弥に対して、骸は今度こそ我慢できずに苦笑してしまった。

  「君達は全くもって、難しいですね。」

  「…うるさいよ。」

そうして何も言わずに綱吉のもとへと戻る恭弥に対して、骸は深く溜息をつく。

どうやら最近の自分の考えは、当の二人にバレバレだったらしい。


きっと、まだまだ…おそらくはほぼ永久に自分は二人と一緒に過ごすのだろう。何処となく安心している自分自身に対して、再び溜息をつく。

でも、確かに自分は嬉しく感じているのだ。黄色いおしゃぶりを持つアルコバレーノや嵐、雨の守護者達よりも、自分を選ぶ二人と今はどうしようもなく笑いあいたくて堪らない。


もう、こうなったら腹を括るか。


骸はさっぱりとした表情をしながら、桜の下で微笑んでいる二人の元へと足を向ける。


二人の秘密の恋を特等席で見守るとしますか。


三人の柔らかな笑顔を、ただ桜と青空が優し気に眺めていた。



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