BASARA短編小説

□『証』
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「っ、見るな!!!」






それは、突然起きた。





上杉軍と武田軍の戦。そこへ疾風の如く乱入してきた伊達軍も入り乱れての大戦である。

伊達軍筆頭の伊達政宗と、甲斐の紅蓮の鬼と恐れられる真田幸村との一騎討ち。いつもの如くに戦いを楽しんでいた二人だったが、それは起こった。

突然吹いた突風によって巻き上げられた砂が邪魔をし、政宗の動きを一瞬鈍らせたのだ。その時には既に幸村の槍が閃いており、光沢を放つ刃が眼前に迫っていた。

並みの武将ならば避ける事叶わずに致命傷を負うは必須であったが、政宗は瞬時に身を翻して致命傷を避けた。だがその際に、切れてしまったのだ。



シュル……カシャ、ン



右目を覆う、眼帯の紐が――




「あ…も、申し訳御座らぬ!!政宗殿お怪我は……政宗、殿?」


予想外の事に慌てふためいた幸村は混乱しながらも頭を下げるのだが、途中で首を傾げた。


肝心の政宗の様子がおかしい。


右目を手で隠しながら幸村を凝視している。眼帯が外れた際、慌てて目を隠したのだろう。握られていた刀は今手放され、地面に突き立てられていた。


「政宗、殿?何処か怪我でも…」

微動だにしない政宗を心配した幸村は、慌てて政宗に近付く。

もしかしたら、怪我を負わせたのかもしれない。確かにここは戦場で政宗とは敵同士であるが、互いに好敵手と認めた相手。このような不意討ちによって戦いに勝つことなど、望んではいないのだ。

距離を縮めた瞬間、政宗の唇が動く。


「…るな、」

「え…?」

それはあまりにも小さな呟きに似た声で、幸村は上手く聞き取れない。


今、なんて?


聞き取ろうと、更に距離を近付ける。


その刹那――



「っ、見るな!!!」


悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。




***


パチッ、パチパチ



「…雨、止みませぬな…」

「……」


パチパチ、パキンッ


二人、火を囲んで向かい合うように座っていた。

外を眺めると、まるで滝のような豪雨が空から落ちてきている。


厚く黒い雲に覆われていた空から、遂に雨が降ってきたのは数刻程前の事。

政宗の叫び声に暫く呆然としていた幸村だったが、雨が降りだした事により正気に戻り、半ば放心状態の政宗を引き連れて近くにあった洞窟へと潜り込んだのだ。

洞窟といっても、大人三人が入るくらいの小さな穴である。幸いにも地面には風で入り込んだ乾いた落ち葉や枝が落ちてあり、火が焚けた。刀や槍は壁に立てかけてある。


外から政宗に目を向けると、やはり右目を手で隠したまま俯き、眼帯を握りしめていた。


自分たちが戦う時は、大抵周囲に人は居なくなる。近くに居れば、二人の尋常ではない戦いに巻き込まれてしまうからだ。幸村の忍である猿飛佐助や政宗の右腕である片倉小十郎もまた、巻き込まれぬようある程度は距離を控えている。

だが今回の戦は規模が大きく(自分たちが動き回ったせいでもあるが)、佐助や小十郎と離れてしまった。

なので、あの悲痛な叫びを耳にしたのは己だけだ。


「…なにやら雨がひどくなってきましたな。政宗殿、寒くはありませぬか?」

「…いや…」


やっと口を開いた事に内心ホッとしながらも、火の中に枝をほうり込む。相手は奥州王だ。確かに寒そうではないが、雨風を凌ぐのに、この目の前の小さな火では多少心もとない。


「Sorry…悪かったな。突然の事に取り乱した。」

「気になさらないでくだされ。元はと言えば、某が悪い。」

政宗は若干覇気がないが、普段通りに見える。それとも、普段通りに振る舞っているだけなのか。


「…その目は、どうなされたので?」


幸村の問いに、政宗は顔をしかめる。


「それはお前に関係な「某には関係の無い事で御座ったな!失言で御座ったι申し訳御座らぬ!!」」


目の前でガバリと頭を下げる幸村に、少々呆気にとられて政宗はたじろぐ。


「Ah〜、もういい!もういいから頭を上げろι」


幸村の場合、放っておけばいつまでも頭を下げ続けていそうだ。それはそれで、大分居心地が悪い。

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