復活長編小説
□『時雨』序章〜プロローグ〜
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「好きだ。」
桜が風に揺れて散っている。少しの風でも満開の桜は散っていく。ザワザワと音を立てながら。
「…今、何…て…?」
ザワザワ
嗚呼、音がうるさい。桜が散っていく。周りは桜。地面はあたり一面花びらの絨毯が埋め尽くしている。普段なら美しい光景も、今は儚い光景にしか見えない。
「好きだよ。君の事が誰よりも。」
どうしてこうなった?今まで人との深い繋がりを避けてきたのに。避けようとしてきたのに!
「ねぇ、何でそんな顔をするの?知ってたよね?君は。僕の気持ち。」
ええ、知ってましたよ。でも本当は気付きたくなかった。貴方の気持ちも、そして俺の気持ちにも。
「でも君は気付いていない振りをした。独りを求めた。傷付く事を恐れていた。君は強くて弱いから。」
知ってましたよ。貴方にはどんなに隠しても意味を為さない事くらい。貴方は誰よりも俺の心の奥深くに入り込んで掻き乱す人だから。
「君がこのまま僕の所にまで堕ちてくるのを待とうかとも思ったけど、君は頑なに否定し続けていたからね。伝える事にしたんだ。言葉にしてしまえば、無かった事にはならないだろう?」
貴方は酷い人だ。俺の心を知りながら、逃げ道を塞いでいくんだから。逃げ道を塞いで、俺を追い詰めるんだから。
「もう都合良く逃げられないよ。」
ザァッ
一際強い風が吹いて桜吹雪が舞い落ちる。この場には二人きり。もう逃げ道はない。彼、雲雀恭弥は相手、沢田綱吉に手を差し出す。
「堕ちておいで、僕の所まで。僕は君の母親の時のようにはならないよ。強いからね。」
そう。貴方は強い。分かっているんです。でもそれでも恐い。また俺のせいで傷付けてしまいそうで。母さんのように。
「好きだよ。…綱吉。」
どうしてこうなってしまったんだろう。
思えば、あの人が俺の前に現れてから俺の中の調和が狂っていったような気がする。
あの人、『神月刹那』と関わってから俺は本当の意味で『独り』ではなくなってしまった。自分を偽る事で他人との距離をとっていたけど、刹那は其れを見抜いて俺の仮面を剥がしていった。俺の過去を知りながら。
「雲雀、さん…。俺…は…。」
答えなければ。でも何て?素直に自分の想いを伝えたい気持ちと拒まなければと思う気持ちの二つが確かに俺の中に存在していて。
俺は、どうすればいいんだろう。
分からない。ワカラナイ…。
歯車は
狂い始めた
ギシギシと
音を立てながら
狂った歯車はもう直らない。
永久に――