捧げ物部屋

□秘蜜
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コンコンッ


「なに?」

「失礼します!委員長!」



応接室――

この部屋は、風紀委員会専用の、正確には風紀委員長である恭弥専用の部屋となっている。

扉には、副委員長である草壁哲也の姿があるのだが、執務机にて書類整理をしている恭弥は、扉を見ずに仕事をしている。


「昨夜の件で、報告をしに参りました!今の時間は大丈夫でしょうか!」

「続けて。」

「はっ!」


恭弥は相変わらず手元の書類に視線を向けたままだが、草壁は気にせずに報告を続けた。


「昨夜倒れていた不良共は、元々並盛にいた連中ではないようです!どうやらなんらかの理由があり、昨夜並盛に来たものとみられます!」

「その理由については調べなかったのかい。」

「い、いえ!ι調べたのですが、不良共はいまだに意識不明、身分を証明するものも見付からず…おそらく、犯人が隠滅を謀ったものと…」

「…そう。続けて。」

「はっ!」


さらさらと手元を動かしているが、圧倒的な威圧感は相変わらずで、草壁は冷や汗を流しながらも誇り高い上司に身震いした。


やはり、自身が敬愛するこの上司は素晴らしい。

雲雀恭弥という男はどこまでも孤高の存在であり、そんな男の部下である自分に対して草壁は誇りを持っている。


確かに恭弥の言動には身勝手な部分も多いが、そんな所もひっくるめて何処までも着いていきたくなる、そんなカリスマ性を持つ男なのだ。この目の前にいる少年は。


「犯人については今のところ、ほとんど情報がありません…どうやらとてつもなく頭の切れる者らしく、こちらの手をことごとく潰されていました。…まるで、」

「“まるで、先を見通していたような”。」

「はっ!ιま、まさしくその通りで…しかし、その日偶々その近くを通りすぎた目撃者がいました!目撃者といっても、日暮れ前にその場所が見れる交差点を通過した程度の人物なのですが…ι」

「…ふぅん?」


そこで、漸く恭弥は視線を手元の書類から直立不動に立つ自身の部下に移した。どうやらこの話は、恭弥の興味を駆り立てたらしい。


「その人物はいつもなら薄暗く、人通りもほとんどないその道を通る事などないらしいのですが、昨夜はどうしてもその道を通らねば電車の時刻に間に合わなかったらしく…その者の話では、学生が一人急ぎながら通りすぎたらしいです。」

それも、『並盛中学校の制服を着た男子学生』が――


「…へぇ。興味深いね。」


恭弥はペンを置き、頬杖をつきながら愉しそうに嘲笑った。

その生き生きとした表情は、まるで新しい玩具を見付けた子どものようでもあり、獲物を見付けた狩人のようでもあった。



「…本当に、思った以上に愉しくなりそうだよ。」



さて…その犯人とやらは、“狩られる”側には慣れているのかな?


「お手並み、拝見といこうじゃないか。」


さぁ、愉しい“狩り”の始まりだ。





***



「…はぁ。ついてない…ι」


綱吉は自室の扉にもたれかかりながら、溜め息をついた。


本当についてない。まさか、あの不良達が並盛にまで来るとは思わなかった。しかも、よりによって風紀委員に感づかれるとは…不良達には記憶が飛ぶような攻撃をしたから大丈夫だとは思うがι


あの不良達は、隣街の黒曜から来たのだ。



『情報屋』である綱吉を追って――



「…まさか、抗争を止めたくらいで並盛にまで乗り込んで来るとは思わなかったな…人にも見られたし、気を付けないと。雲雀さんには特に…ι」


綱吉は膝を抱えて座り込み、真っ直ぐと前を見つめた。


「…絶対に、隠し通さなきゃ。もう、これ以上は否定されたくない…」


電気も灯されていない夕暮れ時の薄暗い室内で、綱吉はただじっと膝を抱えて暗闇を見つめ続けた。


まるで、自身を『世界』から守る雛鳥のように、綱吉はただじっと一人暗闇を見つめ続けた。




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