触れる心
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ふっと意識が浮上する。どうやらまた眠ってしまったみたいだ。幾分か頭痛はおさまり、大分楽になった。上半身を起こし、辺りを見渡せば小さな青年が視界に入る。
壁にもたれ掛かり、寝ている砂名。きっと私の看病をしていてくれたのだろう。
神様、砂名は貴方の遣いですか。何度も、彼は私の死を遮ってしまう‥‥。
だから、神様ってものは残酷なんだよ。そうやって皮肉めいたあと、自分自らに皮肉に呟く。
『自分も、無神論者のクセにね。』
その言葉の響きは、どこか掠れていた───‥‥。
ス、とふすまが開く。そこには、青年の家で出会った男。
『‥‥ゲジマユさん‥‥。』
「杉野、ね。」
『‥‥スギノサン。』
「もう、大丈夫?」
ああ、この人も砂名と同類だ。
『‥‥はい。』
砂名の方に視線を戻す。
「砂名ちゃん、直樹と喧嘩しちゃってね。」
杉野さんは苦笑混じりに言った。
『‥‥バカだね。私なんかほっとけばいいのに。』
父親と、ケンカするくらいなら。本当に、バカ。
「まぁいつもの事だよ。直樹も直樹で不器用過ぎて愛を伝えきれないから。元からの性格からして、素直になんかなったことないし。」
『でも、私には分かったよ‥‥』
言うと、杉野さんは驚いた表情を浮かべる。
『砂名は、必要なんだよ。あの父親にとって。』
初対面でも、伝わってきた。愛と哀しみに揺れている彼の瞳を見れば、一発で。
「そっか‥‥」
杉野さんは何とも嬉しそうに微笑んだ。
『杉野さんて、お人好しですよね。』
疑問ではなく確信。
「‥‥よく言われる。」
彼は再び苦笑した。ああ、彼は苦労人だ。だなんて同情してみたり。
『2人は仲直り出来る?』
「まぁこれで今までやってきましたから。」
勿論、という言葉を聞いて安堵する。多分、親子の絆は彼らが思うより強いんだ。ちぐはぐな親子。だからこそ、成り立つ家族。
『羨ましいな‥‥。』
ぽつりと不意に零れた言葉
(すいません、聞かなかったことにして下さい。)聞こえていた筈の彼は、何を?としらを切った。だから、かれはお人好しだと言うのだ。
091111 瑠榎