小説
□桜色(webclap/不二菊)
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桜色
「わぁ〜、すごいにゃ!」
目の前に現れた桜色にけぶる景色に目を奪われながら、浮かれたようにフワフワと前に進む。
今年は少し寒かったせいか桜の開花が遅れ気味だ。しかしそのお陰で今日の入学式に合わせたように咲き誇った桜並木は皆が心に描く「日本の入学式」の景色だった。
そう、今日は青春学園中等部の入学式である。
桜に誘われて来た赤毛で幼さが残る菊丸英二もその一人だ。少し早めに着いてしまった菊丸親子。元来、大人しく待っていられるような質ではない英二は母親の呼び止めるのも聞かず、青春学園探検を一人満喫していた。
(あれ?誰かいる?)
薄い桜色に紛れて誰かが立っていた。
(学生服?おんなじ新入生かにゃ?)
同じ様に早く来てしまったのであろう新入生に少し親近感を覚え嬉しくなった英二は声を掛けようと近付いた。
「なぁ、お前も新入せ…」
声は最後まで発することは無く空中で霧散した。
(人形…じゃないよな?!っていうか…)
「キレイ…」
「?…桜?うん綺麗だよね」
にこりと微笑むその笑顔にまた絶句。世の中にこんなにキレイに微笑む同じ年の子どもが居るとは英二は知らなかった。
(え…と、この気持ちは言うんだろう…あぁ、これがショウゲキテキ…って言うやつなのかな?)
この時、何となく自分には縁遠い言葉を英二は頭に思い浮かべた記憶があった。