小説
□桜色(webclap/不二菊)
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「正に衝撃的だよな」
ボソリと英二は呟いた。そして隣で寝息をたてている『衝撃』の源を見つめた。
天使の微笑みを二年前の入学式で見せていた『薄幸の美少年』(…だと当時の英二は本当に思っていた)不二周助とはモーニングコーヒーを飲む仲になっていた。
(まったく、これを衝撃的と言わずして何というにゃ?!あの天使のような少年は実はかなり腹黒くって俺は毒牙にかかっちゃったんだよ?!)
「…はぁ。」
深い溜息とともに不二の髪の毛に触れる。
「何よからぬこと考えてたの?」
その手を優しく掴みながらにこやかに不二が微笑んだ。
「?!不二起きてたの?!」
「まぁね」
ふふ…と不二が笑う
「…せいかくわるい」
少し拗ねて英二が睨め付ける。そんな英二に不二は軽く口付けをした。
「英二の考えてることなんてお見通しだから、寝たふりして観察したって仕方ないよ?」
「にゃんだよ!お見通しって?!じゃあ何考えてたか言ってみろよ!」
「…出会った時は天使のようで薄幸の美少年だと思ってたのに、実は腹黒くって毒牙にかかっちゃったんだよ…的なこと?」
…絶句
(何なのこいつ?!人の心まで見通せる…神?!神なの?!…イヤイヤ逆だろう?英二?!神様はこんなに腹黒くにゃいから!!)
狼狽えている英二を楽しそうに見ながら、にこにこと不二は英二ににじり寄ってきた。
「当てたんだから何かご褒美頂戴よ、英二」
「ご…ご褒美?」
さもそれが「当然でしょ?なに言ってるの?」という具合に不二は驚いて見せた。
…そして
「そ、ご褒美。何くれる?」
ご褒美は決定事項?!
英二はにっこり悪魔の微笑みを称える不二を見つめ、意を決したように唇を重ねた。
『からかって遊ぼう』程度にしか考えていなかった不二は、その行動に少なからず驚いた。しかし驚いたとは言え辿々しい英二のキスを受け止めていれば、そこは色々と歯止めが効かなくなってくる、次第に逆に深く英二の唇に自分の唇を重ね始めた。
「ふっ…はぁ…んっ」
酸素を多く取り入れようとする英二から洩れる熱い吐息にゾクリとしながら不二は唇を離した。
「…英二ってさ、何のかんの言いながら僕とコウイウコトするの好きだよね…」
意地悪っぽく不二が言うと、英二は上気し潤んだ熱い瞳で不二を睨む。
「ふじ…せいかくわるい」
(これで誘ってないとか言われたら僕も困るんだけどな)
苦笑しながら不二はまた唇を重ねた。
「ねぇ、英二。何でさっき英二が考えてたコト分かったと思う?」
英二は潤んだ瞳で「分からない」という風にふるふると頭を振る。
「桜の咲く頃になるとね、僕もいつも思い出すことがあるんだ…何だと思う?」
不二は英二の耳元に唇を寄せて囁く。英二はビクリと身体を震わせた後、またふるふると頭を振る
。
「桜吹雪の中に現れた、それこそ天使みたいに可愛い子と出逢った時のことを僕は思い出すんだ。」
英二は少し驚いた様に瞳を見開いた。
「だから君も僕と同じ様に、桜の咲く頃になると僕のことを想いだしてくれると嬉しいなって思って言っただけなんだよ。だから当たってて嬉しいんだよ?」
「分かった?」とまた英二の耳元で甘く囁く。英二はその応えとして小さく頷くと不二の背中に手を回し『キュッ』と抱きしめ、不二の耳元に唇を寄せ
「同じ桜色の思い出だにゃ」
そう嬉しそうに呟いた。
今年も桜色の季節がやってくる。桜色の君を抱いて…同じ桜色の思い出を抱きながら…二人で次の季節へ今年も歩き出そう…。
【Fin】