捧 呈
□月身
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照り付ける初夏の陽射し───肌を刺すような熱を帯びた光が、回廊を照らす。
もう直に真昼。一番陽射しのきつい時刻だ。
見上げれば眩いばかりの昊天の王が下界を見下ろす。
楸瑛は目を眇め、その姿を捉えようと見つめた。
「楸瑛、目を痛めるぞ」
だが突然掛けられた声に我に返り、声の主を振り返る。
声の主はほんの少し眉を寄せ、楸瑛を見ていた。
「……絳攸」
「こんな所で何をしている。俺がいない間はお前が主上に付いていてくれなければ困る」
「その主上から使いを頼まれたんだよ。もう戻るところだけど」
「ならいい、行くぞ」
楸瑛は天を眺める事をやめ、先を歩く絳攸を追い隣に並ぶ。
「めっきり暑くなったねぇ」
「あぁ、また今年も暑くなりそうだな」
歩きながら呟けば、同意の言葉が返ってくる。
楸瑛はふと、去年の騒ぎを思い出す。
花菖蒲を受け、王の側近として過ごした初めての夏……既に遠い過去のように感じられるあの騒がしかった日々。
「……去年みたいな事が起こらなければいいけど」
「それなら考えがある」
「へえ?」
吏部では過去を踏まえ、対策済みと言う事か……楸瑛は真っ直ぐ前を向いて歩く絳攸の横顔にちらりと視線を走らせる。
「で、どんな?」
「簡単な事だ。家の都合などで退官した官吏で、一時的になら復官可能な者の名簿を作成してある。夏だけでなく通年……冬の流感で官吏が倒れた時にも応用出来るように可能な時期も併せてな」
相変わらずそつのない仕事振りに楸瑛は流石、と小さく呟いた。
そのまま会話は途切れる。
「───今夜飲むか?」
「えっ?」
不意に絳攸が口を開くが、その意味を計り兼ね楸瑛は思わず尋ね返す。
「あいつもぐずぐずと腐っていたしな。久し振りに夕涼みがてらに俺とお前、主上の三人で」
元来生真面目な性質で、朝廷で羽目を外す事を好まない絳攸からの提案に楸瑛は驚いた。
何かと理由を付けては飲もうと言い出すのは楸瑛と劉輝で、絳攸は余り良い顔をせず大抵怒り、最後は呆れながらも付き合うのだ。
それでも共に過ごす時間を厭う訳でなく、楽しい一時を幾度も重ねたけれど。
「喜んで……珍しい君からの提案と聞けば、主上も喜ぶね」
「息抜きも必要だからな、たまにはいいさ」
絳攸なりに気を使ってくれたのだろうか?
今の自分の不安定さに。
「じゃあ主上には張り切って残務を片付けてもらわないとね」
楸瑛がくすりと笑えば、絳攸もまた笑みを溢す。
「鼻先に人参をぶら下げるんだ、やる気も出るだろう」
不意に影が濃さを増す。回廊は終わりに近付き、建物の内へと足を踏み入れれば眩い陽射しも追っては来ない。
楸瑛は一瞬だけ天に目を向けた───自分を見下ろす、昊天の王へ。