宝 殿
□跪いて貴方の足を
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物言いたげな視線を投げ掛けられていることくらい、ずっと前から気づいていた。
扇を開いたり閉じたりしながらその合間にチラチラとこちらをうかがっている。
殊更に穏やかな笑顔を作って素知らぬふりをしていると、「ちっ」と舌打ちの音が聞こえた。
ついに堪えきれなくなったらしい。
「どうしました?」
思わず本当に笑みを零しそうになり、言葉を紡ぐことで表情を保った。
「おい、跪いて足を舐めろ」
そこの本を取れ、くらいの気軽さで、だがあくまで尊大に傲慢に告げられる。
まるで拒まれるとは思ってもいないようなその態度。
軽く目を見開くと、扇で隠した口元がそっと歪んだ。
その表情に、むしろ自分を怒らせたいのだと悟る。
───私が貴方の言葉に心を乱すとでも?
「いいですよ」
そう言って、先程までとは少し違う種類の笑顔を作って、見せてやる。
「貴方が望むのなら───」
足元に跪づく。
自分の萎えた両足がその無理な体勢に悲鳴を上げたが、そんなことは構わない。
沓を取り去り、白い足に口づけを落とす。
躊躇ったのは望んだ方で、足を引こうと力が入った。
───もう遅い。貴方の足はもう、私の手の中だ。
舌を指の間に這わせると、ため息のような声が頭上から落ちてくる。
裾を乱し、ゆっくりと舐めあげる。
捕らえた足が震えた。
「貴方が望むなら、一晩中……」
───この、健やかな、痛みを知らぬ、美しい足を愛しましょう。
貴方が望んだのは───。