宝 殿
□惑月
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「や〜と見つけたぜ。ったく、余計な手間とらせんなよな‥」
仄暗い室の薄い壁に背を預け、腕組みしたまま此方に向けられた顔は笑ってない。
「こんな処に隠れてちゃあ、流石にあの女は気づかねぇよなぁ?」
楽に壁から背を離した清雅が腕組みを解き、一歩一歩近付いてくる。
そのわざとらしく高く響かせた足音に、心臓がどくりっどくりっと悲鳴をあげている。
弛くあげられた口の端に眼を奪われているうちに、気付けば息が掛かる程の距離にその口が。
視界を占有したその口がゆっくりと開く。
「つ〜かまえた」
そう言って更に上がる口の端が一瞬視界から消え、柔らかな感触を感じた‥と思えばまた現れる。
「逃げないのか?」
そう尋ねる口調にどこか楽しげな響きを感じ、向けられたその瞳の色に、どう反応するのかを面白がっているのだと知る。
それでも動く事が出来ず、向けられた瞳から視線を逸らすかのようにただその口元を見た。
「いいのか? あの女は気付かない──他の誰も、もだ……」
再び口の端が上がる。
その形がまるで、下弦の月のようだな…と思いながら見つめていた。