捧 呈
□花褥
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天から容赦なく降り注ぐ滴。
とめどなく落ちるそれは、一体誰の流したものなのか。
「泣くな…」
打ち付ける雨の中、身に纏いつく滴を厭わず立ち尽くす背に声を掛ける。
「…泣くな、旺季」
「───泣いてなぞおらんわ」
ゆっくりと振り返るその瞳は何時もと変わらない。
静かに広がる深淵の双泉。
「───陵王…一体お前のその瞳には何が映るんだ?」
激しくけぶる水煙の中、呆れたように呟いた旺季の口唇が薄い笑みに歪む。
悠然と佇む姿は雨に濡れてすら美しい。
それでも───
「泣くな」
もう一度、言葉にする。
自分を見つめる双眸は、不思議そうに揺らめいた。
陵王が無言のままに抱き寄せると、一瞬身じろぎした身体が腕の中に大人しく収まる。
濡れる口唇に己の口唇を重ね合わせる…だが受け入れも拒みもしない冷たい口唇はされるがままに、ただそこにあるだけだ。
(鬼姫───旺季の心まで持って逝くな───鬼姫)
祈るような想いで陵王は旺季を抱き締めた。