捧 呈

□花褥
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「ほら、ちゃんと拭けよ?」

旺季は差し出される絹を受け取り、促されるまま濡れた髪を拭う。

「ふっ…何時もとは逆だなぁ、旺季」

陵王は揶揄するように呟くが応えはない。

だがそんな事には気を止めず甲斐甲斐しく世話を焼き、拭い終わった絹を取り上げると酒盃に持ち変えさせる。

「やっぱ手早く温まるにはこれが一番だろ?」

何時もの旺季なら眉を寄せるような強いだけの安酒で酒盃を満たしてゆく。

旺季の隣に腰を下ろすと自分の酒盃にも同じように注ぎ、黙ったままの旺季を促すように酒盃を重ね合わせた。

陵王は旺季がゆっくりと酒盃を口元に運ぶのを見つめながら、丁寧に拭われた髪に手を伸ばす。

指で掬うと湿った髪が指に絡みつく…陵王は冷たいその髪を撫でつけるように指ですき、肌に張り付いた髪を掬う。

弾みに指が頬に触れ、その冷たさに眉を寄せた。

「陵王、お前───熱いな」

不意に旺季がぽつりと呟く。

「───お前の身体が冷た過ぎるだけだ」

その頬を両手で包み、瞳を覗き込む───その瞳に映る愚かな己の姿を。

 
その姿から目を背けるように瞳を閉じると、口唇を重ねる。

変わらない、抗う事もせず、応えもない口唇…

(ならばいっそ狂ってしまえ───)

陵王は激しく口唇を吸いあげ、捩り込ませた舌を絡ませる。

旺季が苦しそうに息を荒らしても、喰らい尽くさんばかりに貪る。

優しさなぞ欠片も与えない───ただ我を忘れれば良いのだと。

熱情のままに肌を合わせ、思う様に追い立てる。

冷たい身体が熱を帯び、声にならない声が上がる。



 狂ってしまえ。



 もっと、もっと、もっと───





 

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