捧 呈
□花褥
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「よう、起きたか?」
窓の外を眺めていた陵王はその気配に振り返りもせず声を掛ける。
「…今日は嘘みたいに良い天気になりそうだなぁ、旺季」
何時もと変わらない陵王の口調が自然と旺季を受け入れる。
旺季は陵王に並んで、同じように空を見上げた。
いつの間にか暗く重たい澱みは消え、天には美しい暁月夜───その美しい月はもうすぐその姿を隠す。
だがその姿が見えなくとも、天から月が消える事はない。
目に映るものだけが在るのではないように。
「───陵王」
「んー?」
「私は私の為すべき事を為す」
旺季は軽く腕を組み、姿勢を正した姿で暁天を見上げる。
その清らげな瞳は一点を見つめ、惑わぬ光を放つ。
「いいんじゃねーか?やりたいようにやれば。俺は最後までお前の傍に居てやるよ───」
その言葉に旺季の瞳が揺れる。
「言っただろ?俺は花守だと───気に入った花ならば、散らないように最後まで守るさ」
明日には死ぬという夜に、お前に捧げたのが俺の総てだから。
「───好きにしろ」
旺季は再び天を仰ぎ見る。
お前を見ていた───
その生き様を美しいと思った瞬間、総ては奪われた。
その瞳に映るもの、その瞳が揺らめく時、お前のその瞳を見つめてゆこう。
その瞳に映る者が、俺でないとしても───
逝く時は花片の褥に抱かれて眠ろう
お前の傍ならそこは美しい花の世界───
─ 終 ─