捧 呈

□紅痕
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「追わなくて良いのですか?」

 悠舜は行き合わせた部下達を黙って見送る黎深に尋ねる。

「何故私が」

「私なら尚書令室に戻るだけなのですから、合わせてゆっくり歩く必要ないんですよ」

「お前に合わせてなんぞいない。私がゆっくり歩きたいだけだ」

 その言葉に悠舜はそうですか…と静かに頷く。

「それにしても貴方の養い子…絳攸殿は貴方に良く似ていますね」

「似ておらんわ…いったい何処が似てると言うんだ?」

 不機嫌そうに…でも何処か嬉しそうな様を見せる。

 黎深の解り易い反応に、悠舜は思わず笑いそうになるのを堪えながら、杖から手を離した。

「あっ‥」

 杖を無くし、均衡を崩した悠舜の身体を慌てた黎深が抱き留める。

 その瞬間、悠舜は黎深の口唇を霞め取った。

「んっ‥」

 黎深が身を引くより早く腕を回して深いくちづけに変える。

「ほら…」

 口唇を離した後、悠舜はくすくすと笑いながら黎深の耳元で囁いた。

「…直ぐに紅くなるところが良く似ています」

「〜〜〜!」

 
 むすっと黙り込んだ黎深は悠舜を支えたまま転がった杖を拾う。

「…せっかくですから、お揃いにして差し上げましょうか?」

 黎深の身体に触れたまま、悠舜が尚も囁き掛ける。

「…お揃い?」

「紅い、痕を…」

 悠舜の指先がすっと首筋をなぞると、黎深はびくりと身を震わせた。

「〜〜〜いらんわっ!」

 怒鳴った黎深はまたむすっと黙り込み、杖を差し出す。

「紅尚書、尚書令室に寄って行かれますか? 冷たいお茶を差し上げますよ?」

 悠舜が差し出された杖を受け取り問い掛けると、黎深は無言で頷く…紅く染まる己の様を隠さんと扇を広げながら。

「───じゃあ行きましょうか」

 にっこりと微笑んだ悠舜が再びこつり、こつりと歩き出す。

 それに合わせて、黎深もゆっくりと歩き出した。





 夕闇に白い花はらはら散る。





─ 終 ─

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