「……なぁ、してみてもいい?」

 そう問いかけたら、きょとんとした顔になる。たぶん、意味なんてわかってなさそうな。

 なのにためらうことなくすぐに頷いて、笑いかけてくる。

 驚くほどに素直で、呆れるほどに単純……そしてまっすぐな幼馴染み。

 顔を寄せるとまっすぐ向けられた黒曜石の瞳に自分が映ってる。

 そっとそのくちびるに触れてみればくすぐったそうに笑い出す。

 かと思えば急に真剣な表情になり……笑わないように息をつめ、苦しそうに眉を寄せている。

 くちびるが離れた後、なんだか嬉しくて知らず知らずのうちに自分が笑っていることに気づく。

「───約束しよう」

 そう告げれば力いっぱい頷き、更に笑顔が広がった。

「別に約束なんかしなくても僕らはいつまでだって友達だろ? お前以上の奴、僕は知らないもの」

 その言葉に思わず笑う……いつも俺が思ってることそのままで。

 こいつの為ならば、俺はいつだって駆けつける。

 そんな想いまでもが重なって。

「感謝しろよ? 僕がこんなこと言うのは、兄様たちと弟の他は、お前にだけだからさ」

 
 精一杯かっこつけて告げられた言葉に思わずにやりと笑う。

「俺が子守りしてやるのもお前だけさ」

 他の誰に頼まれたってごめんだし、頼まれなくても傍に居てもいいと思える相手なんて、こいつの他にはいやしない。

「子守りして貰った覚えなんかないよっ!」

 だけどその答えがお気に召さなかったらしく、ぷくっ‥と頬を膨らませる……昔と変わらぬ、ちびの頃のままに。

「子守りされてる自覚がないから何時までも困ったちゃんな坊っちゃんなんだろー?」

 やれやれと呟くといつものごとく拳が飛んできて、すかさず逃げる。

 こんなやりとりを何度も交わす毎日を過ごして大人になる…いつか。

「まっ、仕方ないから俺が面倒見てやるよ」

 同い歳なのに、どこか抜けて頼りない奴。

 兄弟の中で、自分ただ一人だけが何も持っていない‥と、思い込んでいる幼馴染み。

 何も持ってないことないって、いつか気づけばいい。

「〜〜〜っ! わかった! お前には特別に僕の面倒見させてやるっ!」

 だから一生、傍にいろ。

 
 鼻先にびしっ!と突き付けられた指先……

 一生、傍にいろ──簡単に言ってくれると、思わず腹を抱えて笑い出す。

 それにまた顔を紅くして怒ってるけど、止まらない。

 これから先、何があっても自ら選んで傍にいるのは唯一人。



 今はまだ幼く、言葉にするには早いけれど──この口唇の誓いを忘れない。



          (09/07/19)




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