short dream

□さっきも見たこの景色
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「名無しさん……名無しさん!」

「んー…」

遠くからユーリスの声が聞こえ、名無しさんは読みかけの本を名残惜しそうに眺める。今日はユーリスと二人で町外れの本屋に来ていた。

もう帰る時間を過ぎた。
しかし後少しで読み終わる。最後まで読んでしまいたい。

「隠れるか」

彼の死角に入るよう、わざと棚と棚の隙間に滑り込む。薄暗いそこで、ぱらぱらと本を流し読みしていたその時。

「…………何やってんの?」

「ゆ……ユーリス」

伸びてきた腕に本を奪われ、
思わず上を向いた名無しさんは慌てて顔を背けた。
弁明しようとした矢先、背中を棚にぶつけ小さく声を上げる。

「いった…たた」

「ほんと、何やってんのもう……」

「ちょっとねー、えへへ……。気にしないで」

「君に隠れられると困るんだけど」

心臓が鳴る。まさか……見透かされてる?

「僕がクォークに怒られるんだよ、ちゃんと連れて帰らないとさ」

名無しさんは、ため息をつきながら歩いていくユーリスの手から先ほどの本をするりと抜き取る。

「先帰ってていいよ、ユーリス。クォークには後で私から説明しとくわ」

「……だからさ」

ぐいっと腕を引っ張られ、さらにもう片方の手で本を奪われた名無しさんは不満そうに口を尖らす。

「名無しさん一人じゃ、帰れないでしょ」

「酷いな。私方向音痴じゃないけれど。この辺りには来たことないだけで」

「方向音痴とか言ってないよ。……僕と帰らなくていいの? 迷っても迎えきてあげないけど?」

意地悪な瞳で見下ろされ、名無しさんも対抗するように腕を組んでユーリスを見上げる。

暫くの睨み合いの末、ユーリスが口を開いた。

「今さ、僕と帰らなくてもクォークが迎えきてくれるからいいもんって思ったでしょ」

「おぉーさすがユーリス。ビンゴよ」

「残念、クォークは次の任務の打ち合わせで既に出た」

「んな……!」

帰るすべをなくした名無しさんは本を棚に戻して出口へと向かう。

「仕方ないから帰る」

「はいはい」

「私一人でも帰れるとは思うんだけどなー」

「そう? じゃあ僕は案内しないからアリエルの酒場まで帰ってみてよ」

二つ返事でオッケーした名無しさんだったが、一時間後、まだ酒場には戻れずにいた。

「あ! またあのアイス屋さん。これはもう買えってことだよね。ユーリスも食べる?」

「うん。……ってそうじゃなくてさ。何で同じとこぐるぐる回ってるわけ?」




(さっきも見たこの景色)(でもこういうのも、たまには悪くないかな)


―――

長編とかまだ公開してないですすんません! ただ自分の中でヒロインとかプロットばっちり決まってるので、長編ヒロインはこんな感じの女の子ですーて話。
 

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