short dream

□雨の日も悪くない
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「ただいまー」

「お帰りなさい名無しさん…ってびしょ濡れですわよ。傘持っていかなかったのですか?」

ワンピースがぺったりと肌にはりつき、長い髪の先から雫をたらしながら名無しさんが酒場に戻ってきた。

「風邪引くよ、ちゃんと傘持っていきなよ」

「いや、持って行ったんだけどねユーリス。ちょっと色々ありまして……えへへ」

数メートル先が見えなくなるほどの大雨に降られてびしょ濡れの名無しさんに不愉快な様子はなく、むしろ嬉しそうに笑っている。

「にしてもすげぇ雨だなー。早く服着替えてこいよ。おいっ、ジャッカル! じろじろ名無しさん見てんじゃねっ!」

セイレンに思いっきり頭を叩かれジャッカルは憤慨した。

「なんだよセイレン! エルザもユーリスも見てんじゃねーか」

「え? あっ、いや、違っ……」

「僕をジャッカルやエルザといっしょにしないでよね」

どもるエルザをちらりと見るとユーリスはため息とともに答える。

「とりあえず、名無しさんは着替えてきた方がいいですわ。風邪を引きますわよ」

「んとねー…もう一回外出る用事があるんだ。どうせ濡れるからその時着替えようかな。アリエルーっ! タオルと何か食べ物頂戴っ」

「これでいいかしら、名無しさんさん」

「うん、ありがとう! じゃあ行ってくるね」

「あっ……名無しさん、傘!」

包みを貰うと土砂降りの雨の中に飛び出した名無しさんを見てエルザが慌てて呼び止めるが間に合わない。彼は一瞬躊躇った後、彼女の後を追った。






「名無しさん…。やっと見つけた」

「……エルザ?」

地面にしゃがんでいた彼女に傘を差し掛けると、名無しさんは驚いたように目を丸くする。

「こんな所で何して……子猫?」

「うん。まだ小さいのにびしょ濡れで震えてたから……つい」

路地裏の地面に置いてあったのは先ほどアリエルが渡していた包みと彼女の傘。それにタオルにくるまれた小さな小さな子猫だった。

「名無しさんもびしょ濡れだ」

ふわりと上着をかけられ、名無しさんは思い出したように笑った。

「そういえば初めてエルザに会った時も、激しい雨の日だったね」

「……あの時も君は雨に濡れていて、俺が上着をかしたっけ」

「懐かしいなぁ」


一人で震えてた私を、エルザはクォークのところまで連れて行ってくれたっけ。私を仲間に入れるように頼むため。

「ねえ名無しさん。その子猫、連れて帰ろうか」

「え? いいの……?」

「二人でクォークに頼もうよ」

「……うんっ」




(雨に濡れた身体は冷たくて)
(でも胸に抱いた子猫と隣を歩くエルザのおかげで、雨の日も悪くないって思ったんだ)


―――


エルザはもう何か、夢を入れる隙が……。でもいいですよね、こういう話があっても(?)


 

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