short dream
□はめられるのも有り
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「クォークさん。甘い匂いが私たちを誘っています。あれはもう買わなければいけませんわ、ね?」
「見てあの焼き菓子。美味しそうよクォーク。買うでしょ、ね?」
「何が、ね? だ」
「クォークさん」
「ねぇクォーク」
「ダメだ」
マナミアと名無しさんに両腕をぐいっと絡められるが、クォークは表情を変えずに言った。
「お前らの欲しいもの全部買ってたら破産する」
「お願いクォークぅ」
「お願いしますわ」
「……おい、上目遣いやめろ」
両手に花だな、的な視線でさっきから見られているが嬉しくない。
マナミアの大食いを阻止するのには日課のようなものだが、今日は名無しさんまで悪乗りしてくるから大変だ。
おまけに名無しさんは俺が惚れた女。それを知ってるのか知ってないのかマナミアは柔らかい笑みを絶やさない。
「うふふ、クォークさんは名無しさんに弱いですも」
「買ってやるから黙れ」
「まあ。ありがとうございます」
……ちぃ。
名無しさんを上手いこと使いやがって。
「……ったく。買い物は終了だ終了。帰るぞ」
「機嫌悪っ! マナミア何かしたの?」
「いいえ何も?」
別に機嫌が悪い訳ではない。
冷やかされるのは気にくわないが名無しさんがいるからプラスマイナスでゼロだ。
「……ああそういえば。噴水広場に旅の行商人さんが来て、期間限定でアクセサリーを売っているんですって」
「そうなの? へぇー、行きたいかも」
「残念ながら、私はこの後少し用事がありますのよ。名無しさんはクォークさんと行ってくるといいですわ」
俺は思わず持っていた紙袋を取り落としそうになった。
食べ物からやっと離れたと思ったらまた買い物か、と聞いていたがマナミアめ……。
大人しい顔してやってくれるじゃないか。
「うーん……どうしよっかな。クォークもう帰りたい?」
「……いや。お前の好きにしろ」
一応尋ねつつも既に噴水広場へと足を進めている名無しさんの後を追いながら俺はそう答えたのだった。
「いらっしゃいいらっしゃーい! そこのお嬢さん、アクセサリー見ていかないかい?」
「素敵ですね。見るだけのつもりだったんですけど、欲しくなっちゃった」
名無しさんはリボンをモチーフにしたシルバーのネックレスを見ているようだった。後ろ姿を眺めていた俺に不意打ちのように店主が言う。
「嬢ちゃん可愛いから安くしとくよ。彼氏さんに買ってもらいなぁ!」
「え、いや、あの……」
「ほら半額でいいから、ほら」
絶句する俺と名無しさんに構わず、店主は勝手に勘定を済ませた。
「あ……っと、ごめんクォーク。買ってもらうつもりなかったんだけど」
申し訳なさそうにあたふたする名無しさんが可愛くて、思わず笑みがもれる。
「いいさ、別に。ネックレスなんて買ってやる機会なかなかないからな」
「まいどお買い上げ!」
俺に渡されたネックレス。
しかし包装がされてない。
薄く笑う店主。
……ちっ、乗っかってやるか。
「嬉しい、ありがと」
自分でつけるよ、とばかりに差し出された手を無視して俺は彼女の細い首もとに腕を回した。
「大人しくしとけよ。つけてやるから」
(ただいまー!)
(お帰りなさい名無しさん。良かったですわねクォークさん?)
(全くお前は……。だがな、はめられるのも有りだ)
―――
クォークの片思い設定ですよん。
なかなか奥手なクォークにマナミアが色々仕組んでればいいと思います!←ぇ