short dream

□幸せにならないと許さない
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「お帰りエルザー…てお前、酔っぱらってんのか?」

ふらふらした足取りで扉を開けて入ってきたエルザ。

どうしたんだろう。
私は冷たい水を持って行った。

「飲んできたの?」

「………好きだ」
「は?」


貴方が好きで好きでたまらないのは、カナンでしょ。

無邪気で可憐なお姫様。
何回か会ったけど、気さくに話してくれて凄くいい人だった。

「エルザ酔ってる?」

「……大好きでたまらないんだ。だから…………」


エルザの腕が私に絡んだ。

やめてよ、何するの。
好きなのは私じゃないくせに。

やめてよ、泣きたくなるから。

彼の体重を支えきれなくて、私は後ろに倒れ込む。
派手な音を立てて床に転がった二人に、酒場の空気が凍りついた。


「おいエルザっ、お前名無しさんに何して…!」


「退いてよ……重い」

「拒絶しないでくれ……」

「何をよ」


「………………カナン」


小さく恋人の名を呼ぶと、エルザは眠ってしまった。

全く、人の気も知らないで。
いい身分ね。

カナンに拒絶されたの?

確かに背格好はカナンに似てるかもしれないけどさ。

私を彼女と間違えるなんて。
本当に、いい身分よ。


「エルザのばーか……」


デコピンをくらわせていると、ジャッカルが私からエルザを引き剥がしてくれた。


「ったくこいつはどうしようもねぇな……。大丈夫か?」

「平気。あえて言うなら、背中が痛いかなー」

「部屋戻ろうぜ。マナミアにヒールかけてもらおう、ほら」


私の手を引いてセイレンが言う。みんな気遣ってくれてるんだよね、私のこと。

ちょっと心がまいってたから、助かった。





次の日の朝。

階段を下った私を待ちかまえていたのはどんよりと落ち込んだ顔のエルザ。


「………名無しさん……ごめん、昨日はその……ジャッカルから聞いたんだけど俺、酔ってたみたいで」

「……もー、エルザったら。カナンに嫌われるよ?」

「ご、ごめんっ! そんなつもりじゃなかったんだ。あのさ……、俺……何かした?」


不安そうに聞かないでよ。
カナンの名前呟いて寝たくせに、ちゃんちゃらおかしい。

エルザの頬をつねってやる。


「ううん、何もなかったもん」

「そっか……良かった。ごめんね、ほんと」

「次やったら許さないわよ?」

「ごめん……。もし次があったら、遠慮なく殴っていいよ」


「ああ? じゃああたしが思いっ切り殴ってやるよ」
「えっセイレン、それは勘弁」

「…………僕が魔法で焼いてあげてもいいけど?」
「ユーリスまで!? いやいや、確かに俺が悪かったけど」


「悪い人にはお仕置きですわ」

冗談なのか本気なのか、フライパンを取り出すマナミアを見て私は声を上げて笑ったのだった。



(ねぇエルザ)
(私、貴方がまだ好きみたい)
(だから幸せにならないと許さないんだから)


―――

切なくなってしまった不覚!
エルザの甘夢難しいです。



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