□溺れすぎて焼死した
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大学生くらい









しらいしくらのすけ。
安定しない名前だと思う。ゆらゆらゆらゆらしたくらげみたいな名前だ。はっきりそう言ったら思いっきり髪の毛掴まれて引っ張られた。女の子相手になにすんの!最低!

「最低はお前やどアホしね俺は今気分悪い言うとるやろ」

確かに、白石が風邪で寝込んでるベッドの枕元で言うには不適当な言葉だったかもしれない。ごめんねしらいし。私は可哀想な白石のために買ってきたポカリを差し出しながら、ちょっと小馬鹿にして言った。白石が思いっきり眉をひそめる。

「しんどい言うとるやろ」

お前のボケには付き合えん。白石はポカリを受け取り上半身を起こした。そのままペットボトルに口をつける。ポカリを燕下する喉元は、退屈なリズムで上下に動いた。私はそれから目を離し、白石の部屋を見渡す。部屋の窓は、オレンジ色のカーテンがきっちりと覆っている。しかし遮光カーテンでは無いのか、それは日差しをぼやけさせているだけだ。白石の部屋の電気は消されているのだが、夕日みたいなそのカーテンの向こう側の太陽が明るいので、余り気にならなかった。

「ん」

白石は飲み終えたのか、私にポカリを渡した。少しだけ触れた指が熱い。さっきまで下がってたのに、また熱が上がったんだな、と思う。

「しらいし」

口に出すと、少しだけ安定するように思えた。私はほんの少し笑う。

「なんや」

ベッドに沈みながら、それでもこちらの呼びかけには素直に応じる白石。くらくらくらくら。ああそうか、ゆらゆらじゃなくてくらくらなんだ。額に汗で張り付いている彼の髪の毛をかきあげてやりながら、やっと気付いた。白石を見てるとゆらゆらするんじゃなくてくらくらする。そう、多分彼に酔うんだ。不安定なのも、私が白石に酔ってるせい。私は手の甲を白石の頬に当てる。熱い。

「しんどい?」
「さっきから言うとるやん」

白石はゆっくりと目を閉じながら言った。薄い瞼がたまにひくつく。私はそこからまた目を離し、ぼんやりと暗くなってきた部屋をもう一度見渡した。ごちゃごちゃしてるんだか綺麗なんだか分からない部屋。その隅っこに置かれたベッドで眠る白石に、どうしようもない愛しさを感じる。私は白石の隣に潜り込んだ。

「入ってくんなや…うつるで」
「へーき」

さっきまでベッドの外にいたからか、私の体は冷たい。白石は熱い。私は彼に抱き付いた。

「冷たい?」
「まあまあ」

お、声が本格的にかすれ始めたみたいだ。つらそう。私は白石の頭を撫でた。白石も私を抱きしめ返す。
白石の向こう側に見える本棚には、毒草大図鑑という本がど真ん中に置かれていた。アホ可愛い。ポカリやなくて漢方のが良かった?尋ねると、穏やかな寝息が返ってきた。とうとう眠ってしまったみたいだ。それにつられて、私も欠伸をする。カーテンの向こうの日差しの感じからいうと、まだ夕方くらいなのだろうが、どうにも眠い。

「おやすみー」

誰に言うでもなくつぶやき、白石の背中を撫でてから、私は瞳を閉じた。


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ぐだぐだ。
(09/04/25)

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