マイガール@丸井



チャラチャラしてる人が苦手だ。なんというか、怖い。俺ってかっこいいだろ、みたいなのを全面に押し出してくるその強さに、圧迫感と少しの嫌悪感を覚える。
その代表みたいな丸井くんに、今ケータイのアドレスを教えていることが不思議でならない。


「誕生日、いつ?」
「は?」
「や、俺他人の誕生日は登録しとくタイプだから」


赤外線でわたしのメアドは丸井くんのケータイに飛び移った。こんな簡単に、今まで接点の無かった怖い相手と繋がるんだ、と思う。

教室に差し込む日差しは傾き、影を濃くしはじめる。階下や屋外から聞こえる喧騒は、どこか物悲しい。みんなみんな遠くにいるみたいだ。近くにいるのは丸井くんだけ。
丸井くんは誰かの机に腰掛けて、わたしのアドレスを登録している。わたしはカバンを肩に掛け直した。帰ろうと思っていたのに、まさか丸井くんに声をかけられるなんて思わなかった。彼は怖いし、まぶしすぎるから。


「んじゃ、今日メールするから」
「え、うん」


丸井くんについて知っているのは、テニス部だということと掃除場所が三階視聴覚室だっていうことくらい。あとは何も知らない。丸井くんも同様だと思う。メールするってことは、情報を交換しあえるってこと。近付くために。なんだか気恥ずかしい、し、何か知られることが怖いと思ってしまう。きっと丸井くんはそこまで考えてないんだろうけど。


「今から帰んの?」
「そう。丸井くんは部活でしょ?」


彼は笑って首を横に振った。


「休み。家どっちだよ」
「駅の近くの…」
「じゃ送るわ」


丸井くんはひょいっと立ち上がると、歯を見せて笑った。影が揺れる。赤い髪がまぶしい。こういう人って苦手だったんだけどな、と思いながらそれが過去形であることに赤面する。今はそれほど嫌悪感はなくなっていた。むしろ。


「鍵閉めて行かないとだよね」
「おー」


わたしが戸を閉めて、丸井くんが鍵をかける。誰もいない教室に西日が深く差し込んでいる。明日の日直の文字がうっすら消えかかっていて、黒板消しが斜めに傾いたままだ。教室はなにも変化がない。廊下を抜ける風はひんやりとしていて、新学期が始まって春めいてきたはずなのに、今日は想定外の寒さだった。丸井くんは鍵を指にひっかけてくるくる振り回す。玄関から吹き上がる風が頬をなで、髪を持ち上げた。


「帰ろうぜ」


こちらに向けて差し出された手を拒まなかったのは、寒かっただけ。そんな言い訳も自然にこういうことができてしまう彼の前では意味がないような気がした。手を握り返しながら、真横の体温に息を詰める。

今までになかったことが起ころうとしている。




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