長談義
□ブラックサレナとウィステリア-1-
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降りしきる雪。
ここ、ケテルブルクが銀世界の二つ名を持つ理由。
ほとんど止むことのないそれは、闇の中に有っても全てを呑み込んでしまうぐらい美しい。
だがそれは観光客にとっての話で、この地に住んでいる者にすればただの日常の一部である。
今道を行く、薄い紅茶色の髪をした青年にとってもこの雪は煩わしいものでしかない。
青年はコートの衣嚢に両手を隠し、まるでこの世の全てが面白く無いとでも言いた気な顔で歩いていた。
心なしか歩調も速い。
暫くはそのまま足を進めていたのだが、視界の端に違和感を感じ立ち止まる。
視線の先は路地裏。
いや、その奥。
青年の瞳と同色の緋で雪を染め上げた少女が一人、倒れていた。
その光景は見る人が見れば芸術と呼べるものだったのかもしれない。
しかし、青年の反応は余りにも無感動だった。
「死んでいるのですか?」
傍らで見下ろす青年の声に少女の指がピクリと応える。
やれやれ、と面倒くさそうにしゃがみ込み、手を延ばした。
と同時、か細い身体から意外な程しっかりとした声が漏れる。