短編1

□ピクニック
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「ピクニック行こう」




夜中の2:50、いきなり電話が来たかと思えばその一言で電話を切られた。確かに学校は休みだし用事もなかった。しかしいきなり言われても覚めていない頭で何がおこったのかさっぱりわからなかった。
暫く混乱する頭で状況整理をするがすぐに諦め二度寝を決め込んだ。きっと夢だ。

「おはよう帝人君」
「……」
「帝人君はジャージ派か。パジャマでも着てるかなと思ったんだけど…あぁ、中学の時のジャージだよね。アハハ、似合う似合う。さ、着替えようか」
「え、ええ?」

夢だと決め込み昼まで寝ていようと思っていたが、11時頃臨也がやって来た。
取り敢えず臨也を外で待たせ着替えると臨也はじゃあ行こうかと、ピクニックに行くという夢の中の出来事にさせていたそれを実行するはめになったのだ。
連れてこられた南池袋公園。休日ともあって人が沢山いた。しかし男二人が手を繋ぎながら公園に居るというのは何とも寂しい光景だ。

「朝ごはんはまだだよね」
「え、あ、はい」
「じゃあ座って座って」

芝生に座った臨也は帝人にも座るように促す。帝人は何となく警戒しながら座ると、先程から気になっていた可愛らしいバスケットを二人の間に置く。バスケットの中からタンブラーをふたつと大きめのタッパをふたつ出した。
なんだか物凄くシュールだ。似合わない。

「…本当にピクニックするつもりだったんですね」
「それ以外に何をするんだい」
「だってピクニックって柄じゃないですから」
「あはは、だろうね。こんなこと初めてだよ」

まあ友達が居ないらしい臨也がひとりでピクニックしていると考えると凄く可哀相だ。そもそも人が好きと言ってるくせに友達が居ないとは可哀相な人。
帝人は内心苦笑しながらタッパの蓋を開ける臨也を見る。
タッパの中身はフレンチトーストだった。綺麗な焦げ目が付いていて美味そうな卵色。波江に作ってもらったのだろうか。

「わ、美味しそうですね」
「でしょ?フレンチトーストは得意だからね」
「……これ、臨也さんが…?」
「俺以外に誰が作るの」

心底不思議そうな顔で見てきた臨也。意外だ。意外過ぎる。
きっと鼻歌でも歌いながら作ったんだろう。目に浮かぶ。

「ほら、いただきますは?」
「い、いただき、ます」
「どうぞ」

こうして奇妙なピクニックは始まった。

ほんのりと甘い卵と砂糖の味。タンブラーに入れてきた暖かいコーヒーが苦くで丁度いい感じに苦くてフレンチトーストに合う。
他愛ない話を臨也が一方的にするのはいつもの事で、変わらぬ日常。そんな日常に帝人はほっとしていた。

心地好い。

「帝人君はテストいつあるの?テスト範囲教えてあげようか」
「いや、なんで知ってるんですか」
「そういえば身長伸びたでしょ、1センチ」
「だからなんで知ってるんですか」
「代わりに体重減ったよね。きちんと食べてる?」
「……」

当たり前のそんな日常を愛する。非日常に恋する少年は平々凡々も愛する。






(ご馳走様です)(今度は帝人君が作ってね)

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