短編1

□闇はイドの中で
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※メルヒェンの記憶が戻らなかったらという設定です。










「ネェ、メルゥー?」
「……」

ぼぅ、とイドの淵に腰掛け虚ろに空を見ている。彼は先程から身じろぎすらもしていない。
彼、メルヒェンがこうなったのは“磔けの聖女”に会ってからだった。彼女はメルヒェンを優しく包みこもうとした。メルヒェンを解放しようとした。


「貴方が会いに来てくれた。私にはそれだけで十分。 ねえ、本当に覚えていないの?今尚眩い、あの日々さえも」


彼女は純粋だった。例えるならば“Myra(ミラ)”、例えるならば“光”。余りにもまばゆい存在だった。メルヒェンには強い存在だった。いや、強すぎてしまったのだ。
メルヒェンは彼女の光を受け止めきれず、闇を恋しがった。











     月と太陽は重ならない

      光と闇は重ならない










消えてしまった聖女(エリーザベト)。メルヒェンから光はなくなってしまった。
目に映る闇を覗き込んだエリーゼは嬉しげに微笑んだ。
待ち望んだ、メルヒェンだけの、唯一のエリーゼ。他にふたつとない存在。私がメルヒェンのエリーゼ。
緩く開いたその唇にそっと口づけをする。

「……えり…」
「…愛シテアゲルワ…ズット、ズゥット、貴方ダケヲ。心配シナクテモ大丈夫ヨ。私ダケガ貴方ヲ愛シテアゲルンダカラ」

ウフフ、笑ったエリーゼは硝子玉の瞳から涙を零した。

腐り始めた指先も、死にかけている心も、広がる闇も、全部全部気付かないフリをする。
エリーゼは嬉しげ(悲しげ)に微笑んだ。








「鏡ヨ鏡、メル鏡。世界デ1番愛シテイルノハ誰?」








(勿論、ソレハエリーゼ姫サ。)(マア、嬉シイワ。メル)



口づけを交わす前に呟いた女の名前は私じゃないのね。

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