短編1

□レプリカ
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机の上で愛しそうに、眠るメルヒェンを見ているエリーゼ。少々痛む腕をかばうように抱きしめながら、エリーゼは微笑んだ。
ああ、痛感はないのだけれど、体が痛い、痛いと言っている。けど、それ以上にメルヒェンが愛おしい。
例え、貴方が私を痛めつけようと、私は貴方を愛しているわ。

メルヒェンは毎晩Ein Alptraum(アルプ トラウム)を見る。それゆえに眠りは浅い。人の闇を見続ける彼の目元に濃く色づく隈は濃くなるばかり。
目を覚ましたメルヒェンは怯えたように人形を探す。全身にびっしょりと汗をかき、瞳孔を開きっぱなしにし、只管に探し、エリーゼを見つけると無我夢中で抱きしめ、「ごめんね、ごめんね。迎えに行けなくてごめんねごめん。ごめん」ただ只管謝り続ける。
どんな夢を見たのか、なぜ謝り続けるのか、それは落ち着きを取り戻したメルヒェンに覚えはない。
だが、エリーゼは自分の体が壊れてしまうほど強く抱きしめるメルヒェンを拒絶などしとことはなかった。

「メル、貴方ノ苦シミヲフタツニ別ケレレバイイノニネ。私タチハフタリデヒトツナンダカラ」
「、え、り………!」

勢いよく体を起こしたメルヒェン。エリーゼが「Guter Morgen(グーテン モルゲン)」と笑いかけるがメルヒェンは酷く動揺しているようで、言葉など耳に入っていない。
ああ、またいつものEin Alptraum(アルプ トラウム)を見ているのねと小さく笑い、メルヒェンの名を呼ぶ。そうすれば自分に気が付いたメルヒェンは自分を見つけていつものようにエリーゼを抱きしめるのだ。
だが、メルヒェンは振り向かない。

「メル?」
「どこだ…どこにやってしまったんだ…僕の、僕の大事な…」
「メル、私ハココヨ」
「ああっ、あれがないと僕はッ」
「メル!私ハココニ居ルッテ言ッテルデショ!?」

声を荒げればメルヒェンは漸くエリーザを見た。ほっと胸を撫で下ろすエリーゼは両手を広げ、メルヒェンを呼んだ。







     偽りの姫君などいらないのだ。
     王子様はそう突き放した。

     時に、レプリカが本物よりも一層本物に見える時もあるのだよ。






「違う!違う違う!!!!」
「エ?」

メルヒェンは頭を振り、エリーゼを手で払いのけた。その衝撃で床に落ちるエリーゼは、床にたたきつけられ脚が嫌な音を立てたのを聞いた。
メルヒェンは落ちたエリーゼなど目もくれず、部屋の中を荒らした。
エリーゼは頭が真っ白になった。なぜメルヒェンは自分を拒絶したのだろうか。今まで私を求めてくれたのに、なぜ?
考えも考えも答えは出てこない。出てくるのは「 用 済 み 」の3文字。

「…ャ…ィ、イヤ、ヨ…私……ッ、メル!メルッタラ!私ヲ見ナサイヨ!ココヨ!貴方ノ探シモノハココニアルジャナイ!オ馬鹿ナメル!見間違エルナンテ本当ニオ馬鹿ヨ!私ハココ!!メルッッ!!!!!」

声を荒げ、自分はここだと主張した。もしかしたら喉も潰れてしまうかもしれない。そう思うがお構いなしに叫んだ。私を目に入れて。私を抱き上げて。抱きしめて、微笑んで。貴方のエリーゼはここに居るわ。

メルヒェンが疲れ、眠りについたのは明け方だった。差し込む太陽に光。部屋の隅で蹲るメルヒェン。冷たい床に転がるエリーゼ。
エリーゼは手を伸ばす。

「大丈夫ヨ、メル?ユックリ寝ナサイ。ソシテ目ヲ覚マシタラ私ヲ抱キ上ゲテ驚クガイイワ。慌テフタメキナガラ私ノ体ヲ治シナサイヨ」

私も疲れちゃったから眠るわね。起きたら一緒に復讐をしましょう?この世界にはまだまだ復讐があふれているもの。大丈夫、貴方に復讐なんてしないわ。だって、傷つけられようと、私は貴方のことを愛しているもの。

「メル、Gute Nacht(グーテ ナハト)」




母は子の安らかな眠りを祈る。
では、彼女達に安らかな眠りを祈るのは誰か。

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