作品

□きみにとどかねえ
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……さて、あのプロポーズからすでに一週間は経過した。俺たちはというと、あれから特に何が変わったということもなく普通に過ごしている。
……おかしい。プロポーズをしたからにはもう少しこう、甘い空気が流れてもいいはずだというのに。

簡単に寝癖を直してリビングに降りていく。と、先に起きていたプロシュートが俺を見つけておはよう、と言ってきた。
そして、片手を軽く顔の前にもってくると「悪い」と言った。

「気をつけてはいたんだが、昨日買い忘れちまってさ。茶葉がもうねえんだ。悪いんだけど今朝だけはコーヒーで我慢してくれねえ?」

言いながら、俺のカップにコーヒーを注いでいく。
そしてソファに座った俺の前にカチャリと置くと、にこやかに話し始めた。

「まさかお前がそんなに紅茶にこだわってるとはな。今まで飲んだり飲まなかったりだったから気付かなかったぜ」
「……は?」
「ま、習慣を作るのはいいこった。心配すんなよ、今日はたまたま忘れちまったが、あの約束は守ってやる」
「……あの約束?」
「ああ。『毎朝紅茶を淹れてくれ』ってやつ。いやあ、珍しいよなあ、お前が俺に頼みごとなんて」
「……プロシュート?」
「まあ、自分で淹れるより人が淹れたやつのほうが美味く感じるからな。安心しろって。後ですぐ紅茶缶を買ってきてやるからよ」

そう言って、ニッと笑う。

まさか、まさかプロシュート。お前は俺のあの決死のプロポーズをただ言葉通りに受け取ったっていうのか? ただ毎朝紅茶を淹れればいいと?

……その時の俺の絶望感を、わかってもらえるだろうか。いや、わからないだろう。わからないほうがいい。こんな……今すぐこの場でレにたくなるような絶望感なんてな……。

フラフラと立ち上がった俺は、そのまま階段を上がった。後ろから「おーい、飲まねーのかよ、コーヒー!」という声が聞こえてきたが、それに返事をする気力などなかった。

バタン。自室に入った俺は、ベッドに倒れ込んで二時間眠った。
そして……目を覚ましてからしばらくして、プロポーズに失敗したことを思い出し……泣いた。
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