作品2

□ホルイル前提でメロ+イルのカップリングに近い友情
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 イルーゾォがわざわざ俺の部屋を訪ねてくるのは、俺に何かしらの用事があるときだけだ。……まあ、当たり前といえば当たり前だが、例えば寂しいから傍にいてくれだとか、ただ一緒に居たいだけだとか、そういった可愛らしい理由で訪ねてくることは全く無いということだ。そういう時の彼の行き先なんか一つしかない。そしてそれは俺の部屋ではない。
 つまり今こうして俺の部屋を訪ねてきて、おもむろに服を脱ぎだしたイルーゾォが望んでいるのはただ一つってこと。

「頼む」
「おやおや。また派手にやられたもんじゃあないか」

 青白い肌にそっと手を這わせた。反射的にひく、と揺れる腹筋の上にいくつかの痣と、わき腹に裂けたような傷が二本。肩甲骨の部分と肘に擦り傷があるのは、仰向けに転ばされたときに受け身を失敗したせいだと思う。
 まったく、他者を制圧するには圧倒的に有利なスタンドを持っていて、どうしてこれだけの傷を作ってこられるのか。俺には全く理解ができない。それこそ初めの頃は、彼にマゾヒズムの嗜好があるのかと疑ったくらいだ。(もちろん実際口に出したときには、最高に『良い』否定のビンタを貰ったものだが)

「んー、ここは痛い?」
「痛ぇ」
「ここは?」
「痛ぇ」
「んーじゃあここ……」
「ッてえええ!」

 大げさに体を跳ねさせた後、涙目でこちらを睨みつける。なるほど、無茶苦茶痛いのはここか。まあ、これだけ大きな痣をこしらえるくらいだから、相当強く殴られたんだろうってのは見ただけでもわかるけれど。

「いっ……ちいち触ってんじゃあねえよッ! 見てわかんだろ、湿布張るなり消毒するなりさっさとしてくれよ!」
「それが人にものを頼む態度かい? だいたいキミだって悪いんだぜ。どこ触っても痛い痛いって適当に答えるんだから」
「適当じゃあない! 痛いから痛いって言ってんだッ!」
「そんなに全身ボロボロなら俺じゃあなくて医者を呼べばいいだろう? なんだったら俺が呼んであげようか。もちろんリーダーにも報告は入れるぜ。ついでにホルマジオにも」

 そう言うと、途端にぐっと押し黙るのだから面白い。面白いついでに、難儀なやつだとも思う。どうもイルーゾォは、自分の弱みを他人に見せるのが何より許しがたいらしい。だから、彼が尊敬するリゾットの前でも、彼の愛するホルマジオの前でも、怪我なんてしてませんって顔で飄々と過ごすんだろう。それがどうして俺を相手にすると変わるのかなんて、俺はとっくに知っている。彼にとっての俺は、良く言えば気の置けない相手。悪く言えば片意地を張るまでもない、取るに足らない相手だからだ。

「……見てわかってるくせに。医者なんて呼ぶほどの怪我じゃあない。そもそもこの俺がスタンド使いでもないターゲット相手にそんな怪我してくるわけないだろ。いいからさっさと手当てしてくれ」
「はいはい。じゃあまずはそこの軟膏を取ってくれ。あ、言っておくが手の届くところは自分でやるんだぜ」
「わかってる」

 腹に湿布を貼ってやってから、背中にある傷に薬を塗りこんでいく。イルーゾォは自分の腕に、苦戦しながら包帯を巻いていた。

「今日はどうしたの」
「ターゲットの周りにボディガードが二人いた。面倒だから全員引き込んでマン・イン・ザ・ミラーに相手させていたんだが、まあ一人くらいならナイフでカタがつくと思って手ェ出したら返り討ち。最悪だ、あの野郎、変な体術使いやがって」
「あー……今日のは東洋人だっけ? 中国系かな、日系かな、あの辺には気をつけなくちゃあダメだろう? やつらはすごいぜ、国民の三割はジャッキー・チェンの弟子だって噂だ」
「なんの噂だよそれ……」

 俺の冗談に呆れたように笑ったイルーゾォは、右手と歯を使って器用に包帯を締めた。まったく、イルーゾォのやつはすぐこうやって油断をするからいけない。スタンドの反則的な能力のおかげで、うちのチーム内ではリーダーに次いで任務成功率の高い彼だが、リーダーと明らかに違うのは、怪我をする率もそこそこ高いということだ。それは彼が拳銃よりナイフを好んで使うせいでもあるが、……まあ、俺がこんな事を考えていても始まらない。油断するしないは結局のところ本人の問題じゃあないか。

「はい、終わり。あとは定期的に薬を塗って包帯巻いてってしてればすぐ治るんじゃあないかな。あ、あ、それともちろん、『カレシ』との『ハデな運動』は控えたほうがいい」

 途端、べしんと頭をはたかれた。そうやってご丁寧に顔を赤くするからまた弄りたくなるっての、わかっているんだろうか。

「まあ、『運動』するしないはキミが判断してくれ。薬のほうも、俺は今日はずっと部屋にいるつもりだから、シャワーを浴びた後はまた来るといいよ」
「……グラッツェ」

 そう言って、腕をくるくる回したり体をねじったりしたイルーゾォは、今度は服を着なおすでもなく俺のベッドにぼふんと横たわった。横目で俺を見て、それから誘うように目を閉じた彼の裸の背は、傷だらけなのに美しかった。
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