作品2
□前半
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1 あなたの名前を教えてください
「リゾットだ。リゾット・ネエロ」
「へえ。……意外だな」
「何がだ?」
「お前が簡単に名前を言うとは思わなかった」
「偽名で答えたほうが俺らしかったか?」
「だな。いつものお前なら、こういう得体の知れねえ場所じゃあ少なくともそれくらいの自衛はするもんだと思ったが」
「事実を言って問題が起こるような場所じゃあない。むしろ互いの理解が深まる良い機会を与えてくれる場所だ。……と、話に聞いている」
「誰から」
「秘密厳守だ。それが俺の報告者に対する誠意と思ってくれ」
「りょーかい。……俺はプロシュート。リゾットの部下をやらしてもらってる」
「頼もしい仲間だよ。いつも助けられている」
「公私共に?」
「まあ、そういうことだな」
2 年齢は?
「見た目相応ってところだな。少なくともこいつに比べたら」
「失礼な。俺が老け顔とでも言いたいのか」
「そうは言ってねえだろうが。年齢不詳だってことだよ、お前は」
「…………」
「ポーカーフェイス。で、ミステリアス。何を考えているか、普通のやつには一欠けらも読めやしねえ。暗殺者にとっちゃあこれ以上ねえほどの才能だ。"わからねえ"から"いくつにでも見える"。判断がつかねえから自称されりゃあ20代にも30代にも見える。
いいと思うぜ俺は。年齢イコール経験だと思ってやがる頭の固い年寄りどもはまだ多いからな。お前だって、歳偽るのに苦労した覚えはねえんだから別に構いやしねえだろ?」
「とはいえお前ほどじゃあないさ。未だに驚くことがあるよ、お前の能力には。振り返るとまるきり別人がいるような感覚になる」
「ギアッチョなんかはマジにビビッてたからな、初めて披露してやったときには。ま、汎用性の高いスタンドじゃあねえが、潜入やら変装やらで困ったためしはねえ」
3 性別は?
「見た目相応だ。少なくともこの男に比べたら」
「てめぇ、嫌味返しか?俺のどこが女に見えるってんだ、ええ?」
「女に見えるとは言っていないだろう。立派な男だよお前は」
「…………」
「だが、中性的とでも言うのか?顎や頬のラインに男らしい角が少ない。その気になれば化粧と服装で女に化けることも可能だ。振る舞いも完璧だからな。流行のファッションもよく研究している」
「ヒトを変態みたいに言うんじゃあねえよ」
「尊敬しているんだ。できることが多いほど暗殺の幅も広がる」
「ハン、確かにお前が女装ってのもな…………ククッ」
「ん?どうした」
「いやさ、いま急に、この間お前に化粧してやったときのこと思い出したぜ、……くく、傑作だったなあ、アレは。写真まだ残ってるぜ」
「ああ、先月のか。お前が女装したまま帰ってきたときの。ひどい会だったな。メローネまで結託したものだからチーム全員被害にあった」
「ざまあねえぜあいつら。人の仕事バカにしやがるからそうなるんだ」
「なかなかおぞましい光景だったぞ。顔が整っていれば女装が似合うわけではないということが言葉でなく心で理解できた」
「だろ。結局よ、必要なのは内側から滲み出る品性ってことだよな。あいつらにはそれがねえ。それなりに見られる仕上がりになるのなんざ俺とペッシくらいだってのが示せてよかったぜ」
「…………」
「……あ?なんだよその目は」
「………………いや。お前は本当に良い兄貴分だとそう思っただけだ」
4 貴方の性格は?
「喋るのは好きだぜ。TPOさえわきまえてりゃあ、無駄話ってのも結構好きだ。っつうか、"退屈"が嫌いなんだよな。お前やイルーゾォがよくやる待ち伏せなんて戦法も俺には向いてねえ」
「とにかく早いからな、お前は。判断も行動も」
「ああ。考えナシに動くのなんざ愚か者のすることだが、考えてから動くんじゃあ遅すぎるだろ? "考えた瞬間に動く"ってのが性に合ってんだ」
「だろうな。お前とチェスをすると本当に感心するよ。一手一手のスピード感が半端じゃあない。どう攻めても臨機応変に対応してくる。流れも定石も無視してくるから指し手が読み辛いんだ」
「俺のカンもなかなかだろ。俺らチームの中じゃあ勝率もいいぜ、お前以外とならだが。……良い所までは行くんだがなあ、未だにリゾットに勝ち越したことがねえ」
「俺の性格のほうがチェスには合っているというだけさ」
「抜け目ねえからなあ、お前は。油断するってことがねえ。一時のカンより情報と経験。目の前によ、どんなに美味そうな"釣り餌"を用意してやってもまるで引っかかってきやしねえしよ。観察力が並大抵のもんじゃあねえんだ。どれだけ回り道をしても確実に勝てる方法を選びやがる」
「臆病者だと思うか?」
「まさか。お前がただの臆病者ならとっくの昔にブッ殺してるぜ。お前のその性格が良いか悪いかは明白だろ。お前の指示で動いたメンバーに、誰一人死人なんざ出ちゃあいねえ」
5 相手の性格は?
「プライドは高いな。だが、そのプライドの使いどころを誰より正しく理解している。目的のためであれば、普段の自分を捨てて格下の人間に媚を売ることができるしボケた老人のフリもしてみせる。芯がブレない男だ。どれだけ道化を演じようと、自分の中に揺ぎ無いものがある限り自分の価値が左右されないことを知っている」
「やけに褒めるじゃあねえか」
「そこに惚れたんだ、俺は。自慢したくもなるさ」
「グラッツェ、ミオ・アモーレ。……だが、そこんところを言うならリゾット。お前だってブレねえもんを持ってるだろ。執念深いとよく言われるだろうが、つまるところそりゃあお前の中にある一本通った筋を見ているからだと俺は思う」
「そうだと嬉しいんだがな。……ああ、そういえばプロシュート。お前はよく性悪だなんだと言われているぞ」
「光栄なこった。ま、俺からすりゃあチームの中で一番の性悪はリゾットだと思うが。まったくお前はタチが悪い」
「初めて言われたぞ、そんな事」
「だからタチが悪いと言ってんだぜ。周りが誰も気付かねえんだからな、お前の本性に」
6 二人の出会いはいつ?どこで?
「俺が17のときだったな。昔使ってた事務所で。俺のチームに連れてこられた"暗殺者"がこいつだ」
「誰しも人生の転機というものはいくつかあると思うが、俺にとってその時こそが大きな転機の一つだった」
「へえ」
「俺は19歳で……そうだな、自分がどこまでも小さな世界で生きていたんだと初めて知った」
7 相手の第一印象は?
「闇に生きる人間の陰鬱さも、闇を知らない人間の愚直さも持ち合わせていない不思議な人間だと感じた。驚いたよ、それまで俺の知っていた"同業者"にも、お前のような人間は一人もいなかった」
「俺も驚いたぜ。当時のお前は――イタリアの裏社会がこぞって恐れた"悪魔泣かせ"だ。そんな個人事業の殺し屋が、パッショーネなんて無名の新興組織に雇われやがった。必ず何かの目的があると思っていたが……」
「そんな事を考えていたのか?」
「ああ。だからこそ驚いたんだ。お前が言うには"生きる目的もなく、誘いを断る理由もなかったから"……ってな。言葉通り、生きる気力がまるで感じられやしねえ」
「人生の、最も大きな転機があった。14歳のときに。そして……俺の生きる目的は18歳で終わったんだ」
「"復讐"が生きる目的か? 寂しい男だな」
「小さな世界で生きていたと言っただろう。その時の、俺の世界の全ては"血の繋がった家族"だった」
「…………へえ」
8 相手のどんなところが好き?
「ハン、何だァ?この質問は。くだらねえな」
「良い質問じゃあないか。せっかくだから答えてもらおう」
「どうぞお先に」
「俺はさっき答えたじゃあないか」
「じゃあ質問を飛ばすぜ。次は?」
「…………」
「次」
「…………」
「……おい、次行けって。つぎ……」
「……プロシュート。先ほど伝え忘れていたことだがな」
「あ?」
「"この場所についての報告者からの情報"について。一つ抜けていたことがあった。面倒だから一字一句そのまま言うぞ」
「……なんだよ」
「『質問は全部で百問。先に進むにつれ愛だの恋だのそういった質問が増えてくるが、一問でも飛ばすと先には進めねえ。もしあんたとプロシュートがいつか俺と同じ場所に飛ばされたとしたら、観念して全部真面目に答えるこったな。……ま、多少の恥はしょうがねえと思って諦めなよ、っつーかむしろかなりのチャンスだぜ。だってよもう百問全部答え終えた後の雰囲気ってばよ〜あのイルーゾォがよォだ〜っはっはっ!』」
「…………なるほど把握した。色々と」
「まあ、この場所自体はあいつとは関係ないからな。八つ当たりはしないでやってくれ。それを防いでやるのが俺の報告者に対する誠意と……」
「さっきと誠意の内容変わってんじゃあねえか。適当だなお前」
「まあな」
「じゃあそういう適当なところが好きだってことで」
「ああもう一つ言い忘れていたことがあった。確か回答に嘘を混ぜるとそれは答えていないのと同じ扱いに……」
「……ッチ」
「特に時間に制限は無いそうだぞ」
「…………あーそうかよ」
「ああ」
「…………(貧乏ゆすり)」
「…………」
「…………ハァ(ため息)」
「…………」
「ッチ……(舌打ち)」
「…………」
「…………っあークソ!」
「…………」
「………………俺らチームを纏められるだけの度量と頭脳。普段ぼけっとしてる時とのギャップ(早口)」
「そうか。グラッツェ」
「うるせえ」
「せっかくだから俺ももう一つ言っておこう。俺はお前の『思わぬ方向からペースを乱されると意外に脆い』部分が好きだ」
「うるせえな。……ったく、こんな質問があと九十個以上続くってのか? 冗談じゃあねえぜ、ックソ」
「そうか? 楽しくなってきたぞ、俺は」
9 相手のどんなところが嫌い?
「最近のお前全般」
「……なんだ、プロシュート。とうとう俺に飽きでもしたか?」
「昔のお前のが単純で可愛げがあったって話だ」
「間違ってもお前をからかったりしなかったと、そう言いたいわけか」
「よくわかってんじゃあねえか」
「常に俺の役目だったからな。お前に振り回されるのも、手のひらで転がされるのも」
「それが今じゃあ対等以上に渡り合ってきやがる」
「仕方ないだろう。俺は気になるものはとことん観察するタイプなんだ。そうして観察してみると、どうやら俺の思っている以上にプロシュート。お前は俺のことが好きらしいと気付いた」
「ハン、随分な自惚れだな」
「そうでもないさ。俺はお前を愛するが故にお前の一挙手一投足に振り回されたからな。逆をやってみて、お前のペースが乱れたとき、なるほどプロシュートという男も俺と同じような気持ちでいるんだとようやく実感した。と同時に、どうしてお前が"性悪"と言われてまで他人を振り回すのか理解したよ。お前は――」
「それ以上言ったら直触りだぜ」
「……だそうだ」
「それでいい。口の軽い男は嫌われるぜ、リゾット。……で?お前は」
「俺か? お前の嫌いなところ……そうだな。嫌いというほどではないが、少し人との距離感が近いんじゃあないかと思う」
「距離感? 別にそんなおかしくはねえだろ」
「…………ペッシとの距離が近いんじゃあないかと思う」
「はあ? ピンとこねえな。はっきり言えよ」
「(これ以上はっきり言うにはどうしたら良いのだろうか)」
「? まあいい、言うことがねえんなら次行くぜ」
10 貴方と相手の相性はいいと思う?
「良いと思うか? プロシュート」
「ソルベとジェラートに比べりゃあ、決して良くはねえだろうな。いつもぶつかってばかりだ」
「譲らないからな、お互いに」
「容赦もねえだろ、特にお前は」
「それこそお互い様だ」
「まあな」
「だが、それでも結局は一緒に居る。一概に相性が悪いとも言えないと思うが」
「なにもお前が憎くて喧嘩売ってるわけじゃあねえからな。つまりはあれだ。一緒にいて苦痛じゃあねえ程度の相性ってことだろ、俺たちは」
「……どう受け取れば良いか迷う答えだな」