作品

□こんなティッツァーノは嫌だ
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○月×日 晴れ

今日はスクアーロと買い物に出かけた。久しぶりに服屋を巡ったので予想外に荷物が増えてしまったが、わざとヨタヨタと歩いて弱々しい声で「私あまり力がなくて……すみません、スクアーロ」とかなんとか言ったら喜び勇んで両手に全部持ってくれた。バカめ。私ならその程度の荷物片手で持てるわ。

でも大量の荷物を持ってフラフラしているスクアーロはとても面白かったのでそのままにしておいた。この間100kgのバーベルを軽々持ち上げて街のガキ共に畏怖の目で見られたことは秘密にしておこう。




○月△日 晴れ

今日は組織の裏切り者を殺すよう指令が出たのでスクアーロと二人、街中のド汚いしみったれビルまで赴いた。
正直この私がこんなクソの掃き溜めのようなところに入るのは気が引けたが、あのクソッタレ(消しゴムで消した跡がある)ボス直々の指令なのだから仕方がない。

いつものように私のトーキング・ヘッドで対象をトイレまでおびき寄せ、クラッシュで邪魔な取り巻きを食い破りながら瀕死のターゲットのみを連れ去ってくる。
そこで初めて気付いたが、このターゲット。どこかで見覚えがあると思ったら、以前私を酔い潰して手込めにしようとしたことのあるクズ中のクズだった。
まあ適当に騙してウォッカの一気飲みを勧め、逆に酔い潰してやったから別に何も問題はなかったが……というかそもそもウイスキーの7、8杯でこの私が酔えると思ったかアホめ!私を酔い潰したいならスピリタスをガロン単位で持ってこいってんだ。

まあ、何もなかったとはいえムカつく事に変わりはないので、ある程度の尋問が終わった後に突然大声を出してスクアーロの気をそらせ、思い切りキ○タマを蹴り上げてやった。
声も出せずに絶命した好色野郎の舌を引きちぎり、慌てたフリをしてスクアーロに「ターゲットが舌を噛んで自殺した」と報告すると、スクアーロは私をなだめながら「それよりUFOってどこだ?」と興奮気味に聞いてきた。ウソに決まっているだろうバカが。




○月□日 くもり

今日はスクアーロと夕飯の買い出しに出かけた。
が、その帰り道に、良く見積もっても中の下といった評価がふさわしい小汚いチャラ男が私をナンパしてきた。どうやら私を女だと思い込んでいるらしい。
街中で目潰しはまずいよな……と思いながら困っていると、ジェラート屋の看板に張り付いていたスクアーロがようやくこちらに気付いて追い払ってくれた。

そこまでなら良かったのだが、このクソ野郎、「ティッツァーノは美人だからしょうがないよな、俺もキミが隣に居てくれて鼻が高いよ」なんて言いやがった。
しょうがないでいちいちナンパされてたら堪忍袋の緒が何本あっても足りんわ。

腹が立ったので、すぐそばに建つジュエリーショップの店頭に飾られていた高そうなブローチを物欲しそうに見てやった。
案の定私の顔と値札を交互に見て恐る恐る財布の中身を確認したスクアーロは、引きつった笑顔を見せながら「それ、気に入ったんなら買おうか」と言ってきた。かかったなアホが!





◇月◎日 雨

雨の日は嫌いだ。髪が傷むし体がダルい。その上湿気が多いものだから服がじっとりと湿ってイライラする。
が、スクアーロはそうではないようだ。窓枠に身を乗り出すようにして、石畳に溜まった雨の中をバシャバシャと泳ぐクラッシュを観察している。何が面白いのかさっぱりわからないが本人は非常に楽しそうだ。バカは得だな。

私は暇だし不快だしでイライラしていたので、こっそりスクアーロの舌にトーキング・ヘッドをとり憑かせてみた。
クラッシュを言葉で動かしていたスクアーロは案の定
「よーしクラッシュ!次は右だっ!……あれ!?右!右だって!あ、あれ!?うわあ!や、やめるな!そっちは車道じゃない!も、戻るなクラーーーッシュ!!!」
だとか言ってかなりテンパっていた。車道に出たところでスタンドなのだから轢かれる事もないだろうに。やはりスクアーロはアホで可愛い。




◇月▲日 雨

今日も昨日に引き続き雨だ。相変わらず湿気は不快だが、昨日のスクアーロが面白かったので幾分気分がいい。

それでもやはりグッタリとソファに腰掛けていると、スクアーロが「気分が悪いときは温かい飲み物がいいんだ」
と言いながら紅茶を2つ持って隣に座ってきた。バカではあるがこういった気遣いはできるのだ。スクアーロのバカ正直なところと騙されやすいところを私はとても気に入っている。

犬にでもしてやるように頭をクシャクシャと撫でてやり、軽くキスをすると、不意打ちに驚いたのか顔を真っ赤にしてワタワタと慌てだした。可愛い。正直抱いてやりたいと思った。
が、残念ながらスクアーロには抱かれる趣味はないらしいので、今までどおり私が下で我慢することにした。その方が見た目的にもいいだろう。
それに次の日、腰が痛いだの体が辛いだの適当ぶっこいて家事全般を押し付けることができるのもポイントが高い。
尽くす男を相手に選ぶと何かと得だ。






パタン。




そこまで読んだところで俺は、思わず日記を閉じてしまった。

ティッツァーノの部屋を掃除していて間違ってタンスの上のダンボールを落としてしまった俺は、バタバタと埃をたてながら散らばる中身を慌てて回収しようとして、その中に見慣れないノートがあるのを見つけた。
落ちたときにバサリと開いたノートには几帳面な字で日付とともに内容が書かれており、悪いと思いながらも好奇心に負けて中身を読んでしまったのだ。

ダラダラと背中に流れる汗を感じる。あのティッツァーノが、まさか、こんな。いや、そんなはずはない。これは何かの間違いだ。
混乱する頭をなんとか動かし、とりあえず何も見なかったことにして日記をダンボールに突っ込む。


……背後でギシリと床が鳴った気がした。
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