作品

□短文4
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ぼんじょーるの。おれセッコ。チョコラータに飼われてる。

セッコっていうのはおれの名前。角砂糖が好き。弱いやつがキライ。おれ自身はちょう強い。

ぼんじょるのっていうのはイタリアでのあいさつ。チョコラータが「初対面での印象ってのは最も大切だ。笑顔で内々まで取り入って油断させとけば後々裏切ったときのダメージが倍になる」って教えてくれた。チョコラータまじキチク。

そんでチョコラータっていうのは、……チョコラー……チョコ……。

……まあいいや。チョコラータとかどうでもいい。すぐ怒るし。説明飽きたし。

そんなことよりおれの話。おれは、ごろっと床に寝そべって、天井を見ながらゴロゴロするのが好き。だけどそれがずっと続くのはすげーイヤだ。ちなみに今はゴロゴロがずっと続いてる状態。とにかくおれは、ヒマだ。

ごろっと横を向くと、ヒジョーにゴーカなドアーが目に入る。あれはチョコラータのシュミ。というかこの家を設計したのはチョコラータ。こだわりがあるんだって。だからおれとチョコラータの家は、フツーの家とはちょっと違う。一戸建てだけど玄関が二階にあるの。だから玄関に行くには外の階段をのぼらなくちゃあいけない。そんで、玄関をあけると更に三段の階段がある。こんどは下向きに。
せっかくのぼってきたのに、なんで三段もおりなきゃあいけないのってチョコラータに聞いたら、「平気な顔で階段を上ってきた奴が部屋に入った瞬間グリーン・デイのカビにやられるのが最も楽しい」って言ってた。チョコラータまじキチク。あとそのためだけにワクワクしながら家を設計したんだと思うとちょっとキモい。言わないけど。甘いの減らされるから。

おれは、チョコラータのキチクハウスをゴロゴロ転がって、問題の階段にたどり着いた。べしべし叩く。フツー。あまりにもフツー。でもこのフツーの階段を、生きて下りきったのは何人かしかいない。

ひとりはペリーコロってひと。あのひとは好き。頭いいし、遊んでくれるし、貯金もいっぱいあるし、チョコラータより優しい。だけどチョコラータほど強くないから、おれはいまもチョコラータに飼われたまんま。

もうひとりは、ドッピオってひと。あのひとはちょっと頭がおかしいからコワイ。自分でとぉるとぉる言って、チョコラータのクツ強奪してもしもしとか言ったりする。そんで、自分でひっくり返したチョコラータを助け起こして「どうかしたんですか、大丈夫ですか?」とか言ったりする。おまえの頭がダイジョーブかよって思うけど、カエルみたいにひっくり返ったチョコラータはすげー面白かったからなんにも言わないでいる。また来ないかな。そんでクツ強奪してくんないかな。おれの不幸はちょうイヤだけど、チョコラータの不幸はちょう好き。そんな悪い子なおれ。

もうひとり……ってかふたりは、ティッツァーノとスクアーロってひとたち。スクアーロはただのアホだ。だって甘いの3つくれって言ったら「さっき食べただろ」とか言うくせに、食べてないよってウソつくと「あ、そうだっけ?悪い悪い」とかフツーに投げてくる。3回くらいくり返してもダイジョーブ。それ以上はちょっとおれの中にもあのトリ頭への心配が生まれてしまうので、自重している。

ティッツァーノはコワイ。ドッピオとは別の意味でちょうコワイ。だってなんか睨んでくる。おれの前でたくさんの甘いのをフラフラさせて、おれが釣られかけると全部スクアーロのクチに突っ込んで高笑いしたりする。甘いのが貰えなかったおれはもちろんかわいそうだけど、そういうときのスクアーロはもっとかわいそうだとおもう。だってたったいま白目剥かされたのに、ティッツァーノのやる気のない「愛ですよ、愛」の一言で復活したりする。あんな頭がかわいそうな人間はあんまり見たことがない。でもやっぱり、からかわれたおれの方がかわいそうかな。

だけどおれは、そんな目にあわされてもティッツァーノには逆らわないことにしている。それというのも一回ボコられてるから。ココロの中を。

ティッツァーノのスタンドはしょぼい。だからティッツァーノは弱い。そうおもってた時期がおれにもありました。なんてね。

ティッツァーノのスタンドはやばい。正しくはティッツァーノのスタンド付きのチョコラータがやばい。ちょうキモい。患者の耳元で「お前は必ず助かる」だとか「人気者のお前のところには見舞い客が詰めかけるだろうな」だとか熱心にささやくチョコラータはまじ見たくなかった。キラキラした顔で病院から帰ってく患者と、再起不能になったチョコラータとおれ。チョコラータはストレス性胃炎だとかいってた。おれはキモすぎて吐きまくって寝こんだ。

それもこれもぜんぶチョコラータのせいだと思ったから、「どうですこれでも私が弱いと思います?」だとかエラそうに仁王立ちするティッツァーノの前でチョコラータの立ってる床を溶かして強制土下座をさせてやった。足元をすくわれてゴッて額から落ちたチョコラータはちょうちょう面白かったからおれもティッツァーノもキャッキャキャッキャ喜んだ。そんときからティッツァーノはおれの飼い主マル2。ティッツァーノちょうコワイ。だけどチョコラータいじりをしてるときのティッツァーノは面白いからいまは好き。

カルネは……カルネ?カルネかよ。あいつは駄目だ。駄目だあいつは。無口だとか無表情だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいボス狂信者の片鱗を味わったぜ。マジで。思わずおれのぶりっ子が引っ込むくらいあいつは駄目だった。なんせひとっ言も喋らないでおれらに書類を届けた後、終始無口の無表情でチョコラータお気に入りの机を占領して、右手一本ですげー勢いでパソコンカタカタ打ってたからな。ちなみに左手はケータイ打ってた。別々に二つの仕事。たぶんあいつは頭イイ。というか人間の動きじゃあねえ。あれは仕事の鬼って言うんだってチョコラータが言ってたけど、だとしたらおれは鬼は嫌いだ。怖えよ。マジで。


……さて。鬼のカルネのせいでうっかり本性が出かけたのでぶっちゃけるが、おれは実は頭がいい。周りが思ってるよりずっと多くのモノを考えてるし、知っている。イタリア語はもちろん万能だし、漢字もちょっと書ける。コトワザはちょっと苦手だけど、英語は完璧。というか20ヶ国語は軽いね。どう?ビビッた?おれのこと、勉強できないただのバカだと思ってたろ。だとしたらしてやったりだ。初対面の印象が裏切られると結構キツい。これ、おれがチョコラータに教わった一番大切なこと。

まあ、そんなわけでおれは他の誰が思うよりしたたかな男なわけだが、それでも頭の悪いぶりっ子を演じ続ける。そうしたら周りは油断するし、チョコラータはますますおれを可愛がってくれる。強くて財力もあるチョコラータにくっついていれば、変に頭を使わなくてもおれの生涯はずうっと安泰。それはすげーラクだし楽しいから、おれはバカでも構わない。ナンバーワンよりナンバーツー。対等なパートナーより一方的に可愛がってもらえるペットの地位につく。長いものには巻かれろ。これ人生の鉄則。

そうしてチョコラータにぐるぐる巻かれたおれの耳は、すげー良い。遠くのどんな音だって聞きわけられる。だからいま、外の階段を一段一段イライラをこめて上がってくるのがチョコラータだってのも手に取るようにわかるんだぜ。近付くおれのゴロゴロタイムの終了。始まるチョコラータとの遊びの時間。早く角砂糖投げてくんねーかな。今日は3個くれるかな。それとも5個かな。考えてたらワクワクしてきて、そのまま勢いよく跳ね起きた。久しぶりに両足で立ったから、なんだかフラフラ変な気分。と思ってたら、無意識にオアシスを発動してたからだった。あぶねーあぶねー。14、15、16。その間もじわじわのぼっていたチョコラータは、とうとう最後の段をのぼりきった。

「セッコ!!!お前のせいでわた……オブウッ!」

チャラっとかかるチェーンごとドアーを蹴り開けた瞬間、チョコラータはぶっ倒れた。もちろんおれのスタンドのせいじゃあないぜ。おれ自身のせいではあるけどな。

いつもみたいにビョッと飛びついたんだから、チョコラータはいつもみたいにキィィコエェェエとか言いながら支えるべきだろフツー。でもがったんと倒れた。おれを乗せて。

チョコラータは自分の重さとおれの全体重をお土産に、チョコラータ自慢の階段と仲良くなった。でもおれは階段とはあんまり仲良くしたくないので、さっきまでのおれと同じようにゴロゴロ転がりながら階段から落ちるチョコラータの顔面からはとうに飛び退いていた。言ったろおれはちょう強い。こういうときの判断力と身体能力ハンパねえ。充分に自分を褒め称えてから、そろっと階段の下を見る。手足をピクピクと痙攣させてパタッと倒れたチョコラータは、今度はコンクリートと仲良くなっていた。チョコラータは動かないけど、その心音と呼吸音はちゃんと聞こえるから大丈夫。大丈夫ってのは助けに行かなくても大丈夫ってこと。

おれはまあ、チョコラータは好きだけどチョコラータの説教はキライだからそのままバタンとドアーを閉めた。部屋の内側から。もちろん良い子なおれは、カギを閉めるだなんてキチクな所業はしてやらない。かわりに壊れたチェーンをチャラっとかけて、おれだけの空間完成ー。
一瞬わあい、と思ったけど、よく考えたら部屋には独りぽっち。またヒマになっちまった。おれは、さっきみたいに床にゴロっと転がって、意識を取り戻したチョコラータが這い上がってくるのをゴロゴロ待った。早く帰ってこないかな。ああでも帰ってきたら怒鳴られるかも。どうしようかな。抱きつけば許してくれるかな。あそこは足場が悪いから、足より顔のほうに飛びついたほうがいいかも。よし、そうしよう。

見上げた天井はちょう高くて、おれは少し眠くなった。10分くらい仮眠をとって、そしたらまたゴロゴロしながらチョコラータを待とう。おやすみ天井。おやすみチョコラータ。後でまた遊ぼうぜ。

……え?無限ループ?なにそれいったいどういう意味?





End.

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