偶然と出逢い
□ごめんね。
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霞みがかった朧月夜。
薄く入り込んだ月光に浮かぶ二つの影。
「いいか、伊作。上手くやるんだぞ」
「大丈夫だよ。ちゃんと言ってくるから」
「では明日の夜…いや、明後日の夜」
「わかった。あ、今度は僕の部屋に来る?」
「いや、伊作の部屋には留三郎が居るだろう。何、あのバカはどうせ鍛練で居ない。此処の方が何かと都合がいい」
「そう?じゃあ、また此処で」
「くれぐれも失敗するなよ」
「もう。大丈夫だってば」
伊作は苦笑を浮かべながら立ち上がり、すらっと襖を開けて廊下に出る。
くるりと振り向き、襖の隙間から小さく中に向けて微笑みながら手を振った。
「おやすみ仙蔵。明後日、ね」
仙蔵も軽く手を上げて応える。
ひたひたと廊下を歩く音が小さくなっていくのを聞きながら、誰も居ない部屋で仙蔵はうっすらと笑みを浮かべた。
「……明日が楽しみだな」