宵闇の宴
□第一章
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熱を孕んだ空気が、白いセーラー服を纏った少女の体を撫でていく。
額に滲んだ汗が柔らかな曲線を描く頬を、滑り落ちた。
ぽとん、と胸元に落ちた汗に舌打ちしたくなるのを、少女はなんとかこらえた。
夏は嫌いだ。
理由なんてない。
ただ嫌いだ。
暑いのが嫌だとか、意味のない事を言うつもりはない。
四季のある日本で、夏が暑いのはごく当然。そこに文句をつけてもしょうがない。
どうして嫌なのか、それは少女自身にも説明は出来ないのだ。
生理的に嫌。
そうとしか言いようがない。
開けるまでもなく全開の扉をくぐって、慣れた教室に入る。
ほぼ正方形の教室の、ちょうど中央あたりにおかれている自分の席へと向かう。
途中、近くの席の男子生徒と目があった。
ほんの一瞬合ったそれを、男は慌てて逸らした。
まるで化け物でも見たかのような反応に、少女は鼻を鳴らす。
本気で取って喰われるとでも思っているのだろうか。馬鹿馬鹿しい。
規定通りに膝下10センチを守ったスカートを適度に整えて座る少女の頬に、暖かい風が触れる。
さしてレベルが高い訳でもない、公立の貧乏高校だ。
全ての教室にクーラーをつけられるような、余裕などない。
カーテンをうるさく鳴らしながら入ってくる風は、夏の匂いを濃厚に含んでいた。