「俺が男だったらよかったのにな」
思わず口にだした言葉を聞き、うつ伏せになって微睡んでいた彼女は顔を上げて細まっていた瞳をまんまるにした
その目があっちこっちゆらゆら動く
視線は上の方に向いてることの方が多いから多分思考しているんだろう
暫くすると真っ直ぐに俺を見据えた
ぱちぱち、瞬き
本当にこいつの瞳は見ていて面白い
「なんで?」
結構な時間を与えたにもかかわらず、彼女から出てきた言葉はその三音
「なんでだと思う?」
逆に聞き返すのは意地悪からじゃない
彼女の中で答えは出ていると推測したからだ
…意地悪からじゃない
「考えたことは二つある。いや、三つかな。まず、男ならよかったって思ってるから男口調なのかな、ってこと」
思考が飛びすぎじゃねぇか?
「それに関しては俺にもわかんね、理由なんかねぇんじゃねぇかな」
「ふぅん…」
彼女は上げていた上半身を元のように布団に埋めた
ベッドがギシリと音を立てて俺まで揺れる
「で、あと二つは?」
聞けば彼女はううんと唸って布団に向かっていやいやする
可愛いけどほだされねぇぞ
「寝るな、おい」
「眠い、寝ようよ」
ぎゅうっと俺の腰に巻き付いて来た
可愛い
ほだされそうだ
「男…だったら」
「ん?」
彼女がもそもそと喋る
「もし男だったら、私は多分、見向きもしなかったと思うよ?それでも、いいの…?」
「え、なにお前ガチでレズなわけ?」
「んんー…、ん?んー」
人間語話してくれ
いくら俺でもわかんねぇよ
「んー、まぁ…」
すーっと視線が逸らされていく
都合が悪いと思ったらしい
「へぇ」
「…」
なんか気まずい雰囲気になったが俺もなんか嫌な気持ちになった
なんでかは、わかんねぇけど
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、
多分わかった上でだろうが
彼女は仰向けで寝転がっていた俺に覆い被さって来た
なんか襲われてるみたいな格好だ
「ちとせちゃんが男だったら多分ここまで近付いたりしなかったと思うよ?でもおんなのこだから好きだとかそういうわけじゃなくて…ううん、なんて言うのかな」
そう言ってヒトの上でうんうん考え込んだ彼女の背中に腕を回す
ううん、俺の思考も意味わかんなくなって来た
「だいたい、ちとせちゃんがビアンだから付き合いたいってなったわけじゃないし…」
言いたいことよくわかんない
と愚痴ってこいつは俺に体重を掛けた
作用点が拡散されているためか、元々こいつが軽いからか、どっちもからだろうが余り重さは感じない
「なんていうか……、好きだよ」
上手く伝えることを放棄したらしい、
率直にそういうこと言えるのもいいところの一つだとは思う
「俺も。あー…、つまりお前は俺が男なら好きにならなかっただろうけど俺が女でレズだからって理由で好きになったわけじゃないってことか?」
「まぁ、そんな感じ」
「なんか矛盾してね?」
「んー?」
わかった
眠いんだな
「ねむ…」
ぽんぽんと背中をあやしてやると肩あたりに顔をすりすりして来て可愛い
俺はレズじゃなかったはずなんだが、こいつが可愛いと思えるしこいつ以外は別に可愛いとも思わなくなった
つうかどうでもいい
俺はこいつさえいてくれればどうでもいい
家族も学校も他の友達も大事だし大切なものは沢山あるけど、それら何もかもよりちとせちゃんが好きだと言われた日には最優先事項は決まって来る
「坂内、寝たか?」
「まだ…」
「寝ろよ早く」
そしたら最悪耳元で真っ直ぐな気持ちを伝えてもいい
こいつは簡単に好きとか愛してるとか言うけどこっちは言おうとするだけで顔に火が灯る
今だって熱くて堪らない
「なんか、ちとせちゃん熱くない?」
「うっせ。つぅかさ、」
お前3つあるって言ってなかったっけ?
まだ2つしか聞いてねぇけど
「あ」
彼女は笑った
「忘れた」
と
そんなところも好きだったりする
「那絃、」
「ふぇ!?」
「…なんでも、ねぇ」
名前呼ぶだけでこの熱量なのに、プラスでアイノコクハクなんて無理なことを悟った
だから取り敢えず俺は俺らしく回りくどい言い方をしよう
「俺は那絃が男でも女でもっつうか、…なんだ、あれだ、うん。あー…察せ」
悪い
やっぱり無理だった
†END†
(最後の一つは、やっぱり言えない)
(きっと貴女を困らせる)
(男ならよかったなんて言わないで)
(言わせちゃって)
(ごめんね)
(結婚も出来ないし子どもも産めない)
(でも、もし貴女じゃなかったら、なんて)
(考えたくもないんだよ)