坂内はいつだって、俺の愚痴を聞いてくれた

不機嫌をちょっと漏らせばさらさらと聞き出してくれる
陰気な気分を少しでも晒せば感情全てに言葉を当て嵌め、大丈夫だよと言ってくれた
それは何故か
考えたことなどなかったが、そんな坂内が好きだった

大学が楽しくなくなり休みがちになって仕舞った時期がある
坂内は電話口で、お休みも必要だよ、と言ってくれた
なんで行けないか、理由を聞かれても困るよね
でもなんとなく行きたくないんだよね
辛いよね、わかるよ
でも大丈夫だよ
心配してくれてるヒト達は、それはホンモノだよ、彼女達のこと信じていいんだよ
でも気にしなくていいよ、好きで心配してるんだから
その心配も、重荷になるんだよね
大丈夫だよ
大丈夫、ちとせちゃん
大丈夫だよ、少し休んでいいんだよ


なんで坂内が俺の感情をぴったり当てて仕舞えたのか
それが漸くわかった時、俺はこいつに何もしてやれなかったことを知った
坂内も俺と同じように、辛い時期があったから俺の気持ちがわかるんだと、気付いた時にはもう遅かった
坂内は結構、自分を追い詰めていた
俺が坂内から救われたように坂内を救う奴はいなかったのだ
本来なら俺の役割
なのに俺はのうのうと、自分のことばっかり
嫌になる


それなのに坂内は言った


「ちとせちゃんの存在自体が、私を支えてくれるには十分だったよ」


こいつの愛は、重いと思う
そんなこと言われて仕舞ったら、俺はこいつから離れられない
でも重いくらいが、愛を信じられない俺にはぴったりなんだろう


何度も何度も名前を呼んでくれた
その度に俺は救われた

俺はずっとこいつと居なければならない
こいつが潰れて仕舞わないように、
俺がしんで仕舞わないように








×××







短大に入ってすぐ、人間関係でイタイ目にあったことがある
ツラくてどうしようもなくてしんで仕舞いたくなった時に、彼女はすぐに電話に出てくれた
私がそのことを話すと、坂内は悪くない、どうしてそんなことをするんだ、とまるで自分のことのように悲しみ憤り、そして
泣いてくれた
私が辛いのに、どうしてちとせちゃんも泣くんだろう
私が辛いのが、ちとせちゃんにも辛いのだろうか
わからなかったが、それがとても嬉しくて
嬉しくて
私のために泣いてくれる、ちとせちゃんが
優しいちとせちゃんが
本当に大好きだと想った
私、あなたが好きよ
大好きだよ

ちとせちゃんが辛い時は私も泣いてあげようと思った
ちとせちゃんが泣くのは私が辛いから、代わりに泣こうと思った

どんな辛いことがあっても、彼女がいるならそれだけで幸せ
本気でそう思える





†END†


 

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