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あなたがいるからいけないのよ。
あなたがいるから雨が降らないで水は干上がり田が枯れてろくな食べ物も取れず人が死んでいってしまうの。
皆はあなたを神の遣いなんて言うけれど私は違うと思っていた。
だってあなたが生まれてからこの村はおかしくなったじゃない。
あなたはこの村に災厄を招く存在よ。 飢饉だってあなたがまた招いたんだわ。
あなたがいるのがいけないの。
だから出て行ってよ。
この村から。
朝日が上がる前に。
そして二度と戻って来ないで。
早く、早く出て行って。
今すぐ出ていきなさい!
出て行って!!


…やめてよ。
母さんなんて呼ばないで。


私は、あなたを愛してなんていなかったんだから。



家を追い出されると知らない男の人が家の前に立っていた。
誰?と聞く間もなくその人は「ついてこい」と一言言ってぼくの手を引き村の外へと向かって足早に歩き出す。
生温い気温なのに男の人の手が何故か酷く冷たかった。
引きずられる様に引かれるままにぼくも一歩一歩と歩を進める。
この人は誰で。
何で自分はこの人に連れて行かれているのか。
何処に行くのか。
頭がぐちゃぐちゃで混乱していて何が何だか全部全然わからない。
どうしたら良いのかわからず家の方を振り返ると、そこには母さんが戸に隠れる様に立っていた。
「母さん」と呼ぼうとして思いとどまる。

『――私は、あなたを愛してなんていなかった』

先ほどの母さんの言葉が自分の言葉を塞き止めさせた。

「っ――ァ‥」

何かを言いたいのに何も言葉が出てこない。
その変わりに涙が溢れた。
ぽろぽろと透明な雫が落ちる。
視界の中の全ての物の輪郭があやふやになって、小さくなりゆく母さんの表情さえわからない。


母さん。

母さん。


ねぇ母さん、それでもぼくは母さんを愛していたよ。




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