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空が白み始めた頃にようやくぼくの手を引いていた男の人が歩みを止めた。
それにならってぼくも歩みを止める。
ずっと歩き続けていたから足が痛くて鉛みたいに重たい。
最後は引きずられるようにして歩いた。
ここは何処だろう。
知らない場所だ。
当たり前か。
ぼくが知ってる場所なんてごく僅かしかない。
だってぼくは生まれてから一度としてあの村から出た事が無かったのだから。
人々が言うにはぼくは蛇神様の遣いなのだそうだ。
紫苑が生まれて少しの年に森に囲まれた小さな村に『それ』にかかると瞬く間に老化して死に至るという奇病が流行った。
原因は不明。
予防法も治療薬も治療法もわからない。
かかると必ず死ぬ病。
村人はこれ祟りと恐れおののいた。
村は退廃し、急速に死に向かっていた。
その途中にまだ幼かった紫苑にもこの奇病は容赦なく襲いかかったのだ。
周りの大人達誰もが幼い子どもは生き延びる事が出来ないだろうと諦めた。
一週間高熱にうなされ続け、あわやもう少しという所で死んでしまう所だった、だが幼子は生きた。
生き延びたのだ。
しかし、病にかかる前の幼子と決定的に違った点があった。
それは老化していないのに髪の色だけ色素を失い白髪となった事。
そして、後に蛇神の遣いと呼ばれる所以ともなった身体に蛇が蛇行しているかの様な痣がその小さな身体にとぐろを巻いていた事。
最初は村人もあるはずの無い事に戸惑った。
しかしもっと大きな異変が起きた。
それは不治の病と言われた病が自分を境にパタリと発症者が止んだのだ。
『どういう事だ』
村の大人達は輪になり揃って首を傾げた。
『祟りがおさまったのかしら』
安堵と緊張がない交ぜになった声で女は言う。
『幼子が祟りにかかりながらも生き延びたそうな』
老人が口髭を撫で付けながら呟いた。
『そういえばその幼子の身体に蛇の様な痣が浮き上がったらしい』
村のまだ若い大人がそう声を上げる。
『髪も白くなってまるで白蛇の様だと言っていた』
その友人が後を押すように話を続けた。
『ではもしやこの病は蛇の神様が祓ってくれたのであろうか』
老人はなおもその口髭を撫で付けながらそうもらす。
『ともするとその幼子が蛇神様のお力を授かったのではないだろうか』
そう言ったのはどの村人だったか。
小さな村の数少ない村人の一人がそう言った瞬間から紫苑という子どもの立ち位置がただの幼子では無くなってしまったのだ。
その口火は周りにどんどんと飛びうつり紫苑は蛇神様の遣いとなった。
それ以来、紫苑は村の守り神として村の外に出るどころかほとんど自分の住まう屋敷から出られなくなってしまった。
だから見知らぬ男に連れられ自分は初めて『外』に出たのだ。
こんな理由で。
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