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初めて聞いた言葉だった。
遊郭…と言われてもそれがなんなのか想像がつかない。
わかっていないのが伝わったのか力河は頬を掻いてえーっと…と言葉を探す。

「簡単に言えば金で色を買う所だ」
「色って、何ですか?」
「女を抱く所って事だ。金を払って一夜の妻を買うのさ」
「………」
「………」
「………」
「…お前確かずっと幽閉されていたよな」
「物心がつく頃にはあの社にいました」
「……知識はどこから蓄えた?」
「母さんがたくさん本を持ってきてくれたのでそこから」
「……………」
「……………」
「そうか…」

うなり声をあげ腕を組んだ力河は空を見上げた。
見上げすぎてむしろ反り返っている。
どの位そうしていたのが勢いをつけて力河は身体を元に戻しぼくの肩をがしりと掴んだ。
ちょっとだけ痛い。

「遊郭というのは金がなく行き場のない女や子どもがいる所だ。そこでは毎夜の様にやって来る客を歌や躍り時には遊びを交えながら楽しませる」
「は、はぁ」
「そしてそこで終わらない、遊郭は身体を買う場所だ。遊女達は金をもらい今度は自分の身体を使って客を喜ばす」
「喜ばす…っていうのは…」
「まぁ、なんだ紫苑お前はまだ若すぎるから最初は禿としてその遊女達の世話人として働き、そして遊女達から手練手管を学べ」
「手練手管って何ですか?」
「言うなれば大人の駆け引きだ!」

…説明が面倒くさくなって勢いで押し通そうとしている様な気がしてきた。
けれど力河と会話すればするほどぼくは知らない事が多いのだと気づかされる。

「一夜の楽しみ、一夜の温もり。男達はそれを求めてやって来る。俺たちはそんな客を幸せな気持ちになってもらう為に商売をしているんだ」
「そうなんですか…」

そうとしか言いようがない。

「そうだ。そして紫苑もそこで男娼として働いてもらう。なに、うちは花街一番の妓楼だうちにいる限りお前の命は脅かされない」

力河の大きな手がぼくの頭を撫でる。

「さぁ、紫苑決めてもらおう」

太陽が登り始め辺りが明るくなってきた、風が全身を撫でる感覚が懐かしい。

「今から店に来るか、おれから逃げての垂れ死ぬか。言っておくがもうお前の村に帰っても居場所なんてないぞ」

だって母さんがぼくを売ったから。
いらない、って売ったから。
選択肢なんて元々用意されていない。
そもそも夜通し歩いた道など覚えてないから帰るなんて端から出来ない話だ。
それでも力河は決断を迫る。

「ぼくは…」

今、君はどこにいるのだろう。
ひとつだけ謝らなければ、約束を守れないと。
いや、もしかしたら君は忘れてしまっているかもしれないね。
それでも良い。
だって迎えに来てもぼくはいないのだから。

“なら、おれがあんたをここから出してやるよ”

「力河さんと一緒に行きます」

そこがどんな所かわからないけど、ぼくは生き延びたい。

「働きます」

力河はその瞬間嬉しそうに笑ってぼくを抱き上げる。
身体が地面から離れて宙に浮く。

「よし!紫苑よく言った!これからお前は俺たちの店の子どもだ!!色んな事を教えてやる、お前が見てこれなかった物をいっぱい見せてやる!!」

初めて大人の男に抱き上げられて、戸惑いと少しの恐怖を感じるがどうやら歓迎してくれているらしい。
冷静になればなるほど妙な図だ。
こんな明け方に林の中で何をしているのだろうか。

「紫苑、西華楼へようこそ!!」

花街の西に建つ華の妓楼、西華楼。
こうしてぼくは花街へと足を踏み入れた。




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