企画・捧げもの

□華、咲き誇る。
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しゃらん……

耳の横で簪が鳴る。
それに僕はそっと手をやってみる。
優しく撫でて形を確かめる。
そこには、“紫苑”の華が咲いていた。





華、咲き誇る。





その日の勤めも終わり、畳に座りながら、自分の白銀の髪をとき、ゆるりと簪を抜いた。

しゃらん……

銀の櫛に実際の華より、少し濃い色の紫苑の華が咲いている。

最上階、自分の部屋。
朝日の登りだした空を、格子の窓から見上げた。

美しい

「ネズミ………」

最近、綺麗なもの美しいものを見ると、自分の唇は自然とあの人の名を紡いでしまう。

「ネズミ……」

届くはずもないのに。
応えがあるはずもないのに。

花魁の化粧を施した自分の頬を冷たい雫が伝う。
何度も、何度も。


「く…っ……ぅ…」

好き。君に惹かれている。苦しい。切ない。

愛してる

君に相応しい自分を自分なりに求めたら、ここまで上り詰めてしまった。
もう、自分1人じゃ降りられない。
何度も身請けの話はあった。
だけど、君じゃなきゃ嫌だ。

君以外、必要ないんだ。

簪を貰ったあの日から伸ばし続けているこの髪も、もう腰の辺りまで来ている。





「必ず帰ってくる。
この簪は誓いの印だ。」

愛してる

君から触れてきたあの口付けからは、確かにそう伝わってきたのに。
僕の髪を優しくさわり、珍しく哀しそうに笑った君。

全て僕の思い過ごし??

あの日から、この髪は誰にも触れさせてない。

会いたい。
会いたいよ。
ネズミ会いたいんだ、今。





「相変わらずあんたって人は。」

愛しい君の声

信じられない気持ちで、振り替えって蔀を見た。
君はあの日より艶を増した姿で、そこに立っていた。

「どぅ……し…て…ッ」

力の入らない手を、それでも君へと伸ばす。
君は僕を、その伸ばした手ごと、かき抱いた。

暖かい体温が君の存在を、僕に教えてくれる。
君の心臓の音が優しく響くのが、聴こえるよ。

「会いたかった。
会いたかった、紫苑。」

もう涙が止まらない。
嗚咽が漏れる。
嬉しすぎて言葉にならない。
君を力の限り抱く。
君は、それ以上の力で、でも優しく返してくれる。

少しはなれて顔を合わせた。
ネズミも瞳が濡れている。

「ネズミ、好きだよ。
大好きだよ。」

「俺は、あんたを愛してる。」

「僕だって!!」

僕もネズミも笑う。


もう一度、抱き締めあう。

「紫苑、あんた髪のびたな。」

「ネズミがくれた簪への、僕なりの誓いだよ。」

「……殺し文句だ。」

ネズミの手が優美に僕の髪を上げ、その唇が僕の首筋をなぞり頬を滑り、唇と重なった。
深く、深く、深く繋がる。

今度は共に生きていく未来。

“未来への誓い”

「「愛してる。」」


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