企画・捧げもの

SSSの学パロネズ紫
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数ヶ月に一度席替えをする度に席決めをじ引きにしたがるのは何故なのだろう。
簡単で何より不公平が無いからという理由もあるのだろうが、恐らく皆して博打と同じ気分なのだろう。
自分の目当ての人と近くなれれば嬉しい。
別にそうじゃ無くてもそれほど困りはしない。
つまりは遊び半分。
退屈なホームルームを潰す絶好の機会なのだと。
しかし特に近くの席になりたいという奴がいない人間にとっては机を運ぶのが面倒くさいという感想以外持ち得ない恒例行事だと思う。
例に漏れずおれもその一人。

ホームルーム委員の女子が嬉しそうにキャラクターが印刷された巾着を差し出して来た。
中に入った番号の書かれたクジを引けとの事らしい。
だから適当に一枚を引く。
千切られたノートの欠片に書かれた数字。
今はほぼクラスの真ん中よりやや窓際寄りの前から2番目の席にいるが、さて今回はどの辺りなのだろうか。
ゆるりと首を巡らせるとふと、一人と目が合った。
生憎として女子ではなく今は席がほぼ対角線上にある紫苑がこちらをじっと見ていたのだ。

前髪を切ってから顔がよく見える様になった紫苑はおれと目が合うと照れくさそうにふにゃりと微笑みすぐに顔を逸らしてしまった。
何だあのお坊ちゃんはと思わず疑問符を浮かべる。
既にクジを引き終わった紫苑は今度はどこにうつるのだろう。

――あぁ、そういう意味では。
紫苑と近くの席になれたら良いのに、なんて席替えで初めてそんな風に思った。

「えっと‥おれの席は‥」
黒板に書かれた番号の場所へと机を運ぶ。
30人強の人間と机が一気に狭い教室内を動くのは中々に大変だ。
譲り譲られ時には人や机に当たりながら何とか目当ての場所へと机を置く。
そうだ自分はこれも嫌いなのだと今更ながら思い出した。
椅子を床に置いて早々に腰を落ち着かせる。
廊下側の一番後ろの席。
窓際でないのは少し残念かもしれないが夏の日差しが厳しい今は逆に好都合なのかもしれない。
しかも一番後ろなら教師の目も届きにくいしわりとアリな場所だろう。

「あれ?」

そんな事を考えていると最近ではすっかり耳に馴染んだ声がした。

「ネズミ、そこなの?」
「あぁ。あんたは?」
「君の前の席になるね」


よいしょ、と椅子を降ろして紫苑も着席する。
そして身体ごとこちらに向けて来た。

「‥何だよ」
「嬉しいなぁって思って。今まで席替えとか余り興味無かったんだけど、さっき君と席が近くなれれば良いのにって考え本当に近くなれたから」
「………」

嬉しそうに笑ってすぐに黒板の方へ向き直る。
席替えからそのまま次は学園祭の出し物の話へと変わるらしい。
おれは頬杖をつきながらクラス委員がいくつかの出し物の候補を黒板に書いていくのを眺めた。
視界の端に映るのは紫苑の背中。
季節は夏に移り変わり半袖になっても必ずベストを着用している。
少しうつむいているので肩甲骨が浮いて見えた。
そしてさわさわと静かな風に揺れる白い、髪。
柔らかそうな白髪は人工的な光の下でもきらきらと光って瞬く。
手を伸ばし髪に触れて痛くならない程度にくいっと引っ張れば少しだけ顔をこちらに向け唇だけで“なに?”と聞いてきた。
授業中に優しい微笑みを近くに感じてあぁ、席が近くなったのだと何となく自覚する。
だから。

“おれも――”


口の動きだけで伝える。
さっきは言えなかったから。



“あんたと近くの席になれて嬉しいよ”

そんな事を。

END




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