企画・捧げもの

ネズ紫 甘
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しばしば人の寝相を悪いと言うが紫苑は別の意味で良くないと思う。
いや、質の悪さは寝る前から始まるから恐ろしいのだ。
あぁ、ほら‥。

本を読んでいたらふいに背中に温かさを感じた。
またか、と胸中でため息を吐く。

「おい‥紫苑」
「……」

“誰”なんて考えるだけ無駄だ。
この部屋の住人は小ネズミを除けば自分を含むニンゲン二人なのだから。

「あんた、もう寝ろ」
「……んぅ〜‥」

意味をなさないに等しい声に振り返れば案の定とろんとした表情で自分にもたれかかっていた。
本を持ってはいるくせに開く様子は無くうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。
寝るならとっととベッドの中に入れば良いものを、何故か眠くなるとたまに自分にくっついて来るのだ。

はた迷惑な。
それ以外言い様が無い。
しかも何が迷惑かと言えば本人がその行動を余り自覚しないでやっている事に尽きる。

「おい、寝るのは勝手だが場所は考えろ。おれはまだ本を読ん―‥」

言い終わる前に紫苑の身体がずるりと傾ぐ。
バランスを失った身体はそのままおれの太ももを枕にする形で落ち着いた。


………。
今の拍子に読んでいた本を滑り落としてしまった。
しかも読書の邪魔をした張本人は安らかな寝息さえたてはじめてしまう始末。
ぶん殴ってやろうか迷って止める。
何て言うのか、人間というより猫の様な動物に懐かれた気分だ。
イヌカシが言っていた“飼う”という表現もあながちとして間違っていないんじゃないだろうか。

「ったく‥」

色素を失った髪を指に絡めるように弄る。
ふわふわとした見た目通りに柔らかく触り心地が良い。
感触をある程度楽しみ手を離したら紫苑がもっと、という風に身を寄せて来た。
思わず、喉で笑う。
寝ているくせしてとんだ“ねだり上手”だと。


「……おやすみ、紫苑」

滑り落とした本を手を伸ばし拾い上げる。
自分がこの本を読んでいる間だけは甘やかしてやっても良いだろう。

そう思って本を開いて先ほどの続きを読み始める。

空いた片手が未だ紫苑の髪を撫でているのを自分でも気づかずに。


END




リクエストありがとうございました。
甘いネズ紫になりきれなくてすみません!!!


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