SSS

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灰とダイヤモンドの一節がネズミを思わせるよね、と思って。


■■  ■■
唸る声はまさに雄牛。
赦さないと叫ぶ声は炎に溶けて、

嫌な夢だ。
肺の中さえ凍りついてしまいそうな夜にネズミは一人起き上がる。
せり上がる胃の不快感に冷や汗が浮かぶのを感じるも相反して喉が異様に渇く。
全くもっておかしな感覚だ。

久しぶりに夢で今はない故郷を見た。
何年経とうと自分の中にある憎しみは絶えない。
焼かれる村。
恐怖による悲鳴と苦痛による呻きが何重にも何重にもこだまし、一方的に蹂躙されたのを覚えている。
燃えた炎が赤かった。
流れた血も赤かった。
視界に広がる世界全てが赤かった。
誰かを必死に呼んだ気もするし、もしかしたら恐怖からただ叫んだだけなのかもしれない。
助けてと、もう顔さえ覚えていない両親を求めて。

結局助けてなどくれはしなかったけれど。
当たり前だ。
それを薄情だと言う気はない。
そもそも自分が助けを求めたその時には既に死んでいたかもしれないのだから。

思わず自嘲をこぼす。
憎しみは悪夢となって自分を駆り立てる。
煩わしい反面それで良いと思う。
そうやって何度も記憶を繰り返す事で自分の気持ちを揺るがない物とさせる。
自分はまるで松明だ。
憎しみを恨みを燃やして生きるのだ。

ふと隣で寝ていた紫苑が身動ぎする。
一瞬起きたかと思ったがどうやらただ肌寒く毛布を手繰り寄せたかったらしい。
らしいのだが。

「…んぅ」
「………」

何故おれのシャツを引っ張るのだこのお坊ちゃんは。
無意識とはいえアホではないだろうか。
引き寄せる様に引かれるがそれでどうしろというのか呆れそのまま放っておく。

相変わらず毒気が抜かれる。
紫苑はいつだってそうだ。
全てを燃やそうとする火を穏やかに奪う。

“―――!!”

やめろ。
奪うな、この火を。

おれは構わない。
持てる物を全て失おうと。

“―――!!”

後に残るのがただの灰であろうと、混迷のみであろうと。

“―――!!”

灰の山の深くに自由を得るのだ。
だから、紫苑。

「ごめんな」

この痛みを癒してくれたのに。
奪うばかりで。

“たすけて!!”

あんたは聞き届けてくれたというのに。

紫苑に毛布をかけて再び自分もベッドに横になる。
全ての色が塗りつぶされた闇のなかゆっくりと眠りにおちていく。

もし、溶けた身体が宝石の輝きを放つ時、少しの真実と気持ちがあんたに残ればいいのに。

END








灰とダイヤモンドの一節の他ちょっとしたネズミに対してのイメージがあります。それは見事に原型止めませんでした。
最終回迎える前のネズミって自分ももろとも!!みたいな覚悟で6の崩壊を望んでいたんじゃないかっていう話です(結論)。

因みに灰とダイヤモンドの一節はこちら。
「松明のごと、なれの身より火花 の飛び散るとき なれ知らずや、わが身をこがしつつ自由の身と なれるを もてるものは失わるべきさだめにあるを 残るはただ灰と、あらしのごと深淵に落ちゆく 混迷のみなるを 永遠の勝利のあかつきに、灰の底ふかく さんぜんたるダイヤモンドの残らんことを」C.K.Norwid「舞台裏にて」より




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