SSS
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吸血鬼パロ。
糖度は低め、続く…かも?
「んぅ、…ふッ…」
ぴちゃぴちゃという粘着質な音をたてながら紫苑は舌を這わす。
今しがた自らナイフで裂いた傷から溢れる血を丹念に舐めとる彼の表情はまるで自分が傷ついたとでもいう様な沈痛な表情を浮かべている。
紫苑は鬼だ。
人々は彼を吸血鬼と呼んだ。
日の光りを忌み、人の生き血を啜る化け物だと。
けれど彼は哀しい鬼だ。
「…ネズミ、もう良いよ」
ゆっくりと離した唇にはまるで口紅の様に血が付いていた。
「早く手当てして。こんなに深く切ってしまうなんて…せっかくの君の綺麗な肌が―…」
紅を引いた様な唇に今度は自分が唇を寄せた。
紫苑が驚いて身を引こうとするが肩を押さえつけて動けない様にする。
抵抗出来なくなった紫苑にキスをすると自分の血の臭いがした。
乾いて唇の端にこびり付いた血を舐め取ってもやはりただの血の味しかしない。
美味しさは皆無だった。
「ネズミ、やめて」
「あんたまた痩せたな」
「………」
服の上から肩から手を滑らせ首、胸、腹をなぞる。
肉の感触がほどんどしない。
浮いた骨と硬化した肌にぞっとした。
あの頃から歳を取っていないのに身体だけが衰弱していく。
骨の浮いた肩に頭を乗せ、自分の喉元をさらす様にして抱きしめた。
だめ、と紫苑がわななく。
ゆっくりと自分を抱きしめる様に背中に腕をまわった。
けれそれが決して甘やかな意味をもってなされた訳ではないという事を知っている。
「やめて」
か細い声で紫苑が再び哀願した。
「お願い、離れて」
途端にギリっと背中に爪がたてられる。
まるで皮膚を抉るような様な痛みに顔をしかめた。
紫苑は抵抗しているのだ。
「ッ…ネズミ」
ずっと、ずっとずっと前から。
人間を食べたいという飢餓に。
紫苑は哀しいイキモノだ。
人の生き血を啜る鬼だというのに彼は人間という食材を拒否した。
曰く、人間を愛したのだと。
“だから食べない”
初めて会った頃に紫苑はそう言って微笑んだ。
最初は自らを鬼と呼んだ彼の話を半信半疑で聞いていたとはいえ、言うなれば緩やかな自殺をしていると言われたのだけはわかった。
本人の言う通りおれは彼が何かを食べるというのを出会って4年経つが一度も見たことが無い。
4年。
おれは人間として成長をした。
伸長も紫苑を追い越し、身体つきも大人のそれと似てきた。
けれど紫苑は成長も老化もしない。
ただ痩せて衰弱してゆくのみだった。
一年が経ち、二年が経ち、三年が経ち、四年が経った。
人間よりも緩やかに彼は死に近づいていく。
その事におれは恐怖した。
おれは紫苑を失うという事が怖かったのだ。
縋る思いでおれは自らの腕を切って血を差し出した。
死なないでくれ、と。
彼の前で初めて泣いた。
“あんたがいないならもうこの世界に価値なんて無い”
みっともなく泣いた。
子供の様に泣いた。
それでも紫苑を離したくなかった。
おれは、鬼を愛してしまったのだ。
「駄目だよ…ネズミ」
不意に紫苑の腕の力が抜けて痛みが和らぐ。
ふっ、と喉元に息が当たった。
笑ったらしい。
「ぼくはまだ死なないよ。だから今は君を食べない」
それは残酷な約束だ。
“なら、君を残して死なない。ぼくが死ぬ時は君を食べて死ぬ”
おれは紫苑を好きだから生かしたい。
紫苑もおれを好きだから生かしたい。
ベッドの上でされた約束は睦言と言うには甘やかではなかった。
おれは紫苑を生かす為に血を与える。
紫苑はおれを殺さない為に血を受けとる。
変な関係だ。
けど残念なことにそれはおかしいと咎める人間はいない。
「大丈夫だよ、ぼくが死ぬ時は君の血を一滴残らず食べるからね」
優しく微笑んだ紫苑の瞳だけが泣きそうだった。
END.
たまに悲恋的なのが書きたくなります。
このお話もう少し掘り下げた設定(とまではいかない小ネタ)もあるのでまた機会があれば小出ししていきたいな…と。
吸血鬼パロ良いよねと盛り上がったのが発端。
私は吸血鬼は紫苑で書きましたけどネズミが吸血鬼と考える人もいると思います。
いつかネズミのバージョンもやりたい。
やりたい事だけは常にあふれてる←