SSS

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01設定学パロ。
もとはリクエストされ書いていたのに目的地からずいぶん離れた自覚がある。



帰りのホールルームを終えて各々部活へ行ったり帰路についたり、はたまた教室で未だに友人とお喋りをしたりとしてい
る、そんな中部活のメンバーから回されて来た「本日顧問出張の為、部活なし」のメールを確認してさてどうしようかと思案した。
せっかく珍しく予定が空いたというのにこのまま帰るのも勿体無い気がする。

「それじゃあネズミ。また明日ね」

学生鞄を肩にかけた紫苑が立ち上がり微笑む。
帰宅部である紫苑は授業が終わるとすぐに帰宅してしまうのだ。

「なぁ‥紫苑」
「ん?」
「これから一緒にどっか行かないか?」





そういえば紫苑と放課後にどこかへ行くという事をした事が無い事に気がついた。
主たる理由は自分の所属する部活動に時間を取られるからなのだが。

「はぁ!?やった事ない?」

通学に電車を使う俺に対し自転車通学である紫苑の自転車を駐輪場に来た所で問題が発生した。
店の集まる駅前へ行く事にし、じゃあ二人乗りをしようと提案した所「ぼく、二人乗りした事無いんだけど」という言葉に驚愕を隠せなかった。
そうか、そういう人もいるのかというびっくり半分感心半分。
しかしこのお坊ちゃんの事なのでさもありなんという気がする。

「じゃあ、おれが前乗るからあんたは後ろに乗れ」
「わ、わかった」

荷台を跨いで座った紫苑が困った風に眉を寄せる。

「ネ…ネズミ足はどうするんだ?このままだと引きずっちゃうよ」
「少しだけ出っ張ってる場所あんだろ、そこに足を置け。間違っても車輪に足引き込まれるなよ怪我するから」
「え?‥え!?ちょ!!」

それじゃあ行くぞ、とペダルに足を乗せて体重をかける。
二人分の重さをものともせずに自転車は緩やかに動き出す。
まだうまくバランスの取れない紫苑はほとんどすがる勢いで自分の腹部に腕を回した。
……おい、端から見たらどんだけ酸っぱい光景なんだと思ったのだが当の紫苑は落ちたくも無いし車輪に足を引き込まれたくもないという事で頭がいっぱいらしく腕の力は増すばかり。
…わかった、この状況は百歩でも二百歩でも譲ってやるから力を緩めてくれ。
頼むから。


「お尻が痛い‥」

紫苑の初めての二人乗りの感想はそういう所に落ち着いたらしい。
まぁ、乗り心地は慣れたとしても良くはないだろうが。
自転車に鍵をかけたのを確認してから紫苑がこちらへ向き直る。

「で、これからどうするの?」

「いや、特に決めて無いな。何か見たい所あるか?」
「………いや」

少し考えた素振りを見せるが頭をふって何も無いと言った。
というか、別に秘密にされている訳ではないのに紫苑が私生活で何をしているのか知らないし想像もつかない。
まだ知り合ってから間もないので互いに知らない事が多いのだ。
好きなものも嫌いなものも。
それは恐らく相手にも言える事で‥例えば、今日の弁当の中身が何かを知ってはいるがその内の何が特に好きなのか知らないという様な感じ。
いまいち説明になっていないがニュアンスではそんな所だろうか。

「じゃあ適当に座らないか?実は喉渇いてんだ」
「あぁ良いね、ぼくも緊張したから喉渇いた」
「普通は自転車の二人乗りなんかで緊張はしない」

そこで入ったのは金の無い学生達のたまり場であるファーストフード店。
自分達の他にも他の学校の奴らがお喋りをしていたりノートを開いて勉強していた。

「流石にこういう所には来るのか‥」
「ネズミ、たまに君はぼくを根本的に勘違いしている気がするんだ」

互いに不服そうな顔で向かいあって座り各々が注文したジュースをすする。
おれはこの天然坊っちゃんがファーストフード店へ行くように見えずもしや行った事がないのではと期待‥そう、期待してたのだが本人はそつなく注文を済ませてしまうので期待が外れてしまった。

「そう高い頻度じゃないけど来ない訳じゃないよ」
「ふーん‥」

確かに。
紫苑に対して失礼な事をしたと今更ながらに思う。
自らのイメージ先行で人を判別するのは愚かしい行為だ。
そのせいでまわりも紫苑を遠巻きにし、紫苑も他者と関わる事を諦めてしまった。
何だ結局自分も大多数と同じ様に紫苑を見てしまっているではないか。
ごまかす様にまた一口液体を飲み下す。
喉元にくすぶる様な苦味は決してコーヒーだけが理由ではないと思う。

「でも、不思議な感じ」
「は?何が?」

紫苑が頬を綻ばせてふふっと笑う。

「だって学校ではよく一緒にいるけど放課後に一緒にいるなんて事無かったから。新鮮な気分がする」
「確かにそうだな。部活があって放課後にどっかなんて久しぶりだ」
「‥部活かぁ。演劇部大変そうだよね」
「そりゃな、けどやりがいがある」

楽だから好きなんていうのは惰性だ。
好きな事は楽しいばかりでできていない。
悩んで苦労してそれでも“もっと”と上を目指したいと努力する、それが本当に言う所の「好き」なのではないだろうかと思う。

「紫苑は部活はやってないよな。趣味とかはないの?」

聞くと紫苑は明後日の方に目線を一度投げ、ややあって困った風に笑った。

「ないなぁ‥。」
「ふぅん…じゃあさ、好きな事とかは?」

見合いを思い起こさせる様なやりとりだなと内心苦笑する。
そしてこれには意外にも早く意外な返答が来た。

「君といること」
「……………」

返答しないでくれた方が良かった。

右隣の席で喋っていた女子高生達は急に無言になり、左隣にいた大学生位の男は手からジュースを落とし、後ろの席からはむせたらしくしきりに咳をしていて投げられた爆弾の威力は甚大であったらしい事がうかがえた。
かく言う自分もこめかみの辺りがひきつった様に痙攣している。

「おい紫苑…」
「だって、君のおかげなんだ」

紫苑は冗談だろうと投げ飛ばしたい台詞の割りに眼差しだけは真剣だった。

「こんな風に誰かと話をするのも、関わるのも、放課後に遊ぶのもした事が無かった。無くても、構わないとさえ思っていたんだ。けど君と話す様になって人と少しずつ関わる様になってそれが楽しいって思える様になったんだ」

丁寧に紡がれた絹糸の様な白髪に紫苑は触れた。

「君が教えてくれたんだ」
「……紫苑」
「だからそんな君といられる事は嬉しくて、幸せで、好きだよ」

紫苑は照れくさそうに笑ってそう締めくくる。
その笑顔に何となくいたたまれない気分になる。

「……っあのな、そういうのは男のおれに言わずいつかできる可愛い彼女にでも言ってやれ」
「きっかけは君なんだから君に言うのが道理じゃないか」
「ならTPOを弁えろ。こんな所で言うな」
「学校で言えば良かったの?」
「あんたおれを不登校にさせる気か!?」
「どうして?言っている意味がわからないよネズミ」

軽口の応酬が楽しいと思う。

本当は。

おれも紫苑といるのが心地よくて、好きだと――いつか素直に言えるだろうか。
いや、やっぱり小っ恥ずかしいから言わなくても良い。
天然な紫苑に乗せられつい滑りそうになった言葉をとう苦味の失せた水っぽいコーヒーと共に飲み下した。

たまにはこんな放課後だって良いさ。
こういうのだって思い出したら良い思い出なんて笑える日々になれるんだから。

END.



もともとのリクエストとしては放課後にどっか遊びに行く二人。だったのに二人乗りで満足した阿呆は私です←
学パロ説明だとネズ紫というよりネズ+紫みたいですよね。
個人的に男の子達の青春みたいの好きなので学パロいつも楽しいです。


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