SSS

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電波系紫苑。


自分が自分とたら占めるには何が必要なのかな?

「………」

また何か変な事を言い出した。
おれは夕食であるスープを火にかけていて、紫苑は小ネズミ達に朗読をしていた。…はずなのに。
それじゃあ今日はここまで、と読んでいた本を閉じた紫苑は自分に向かって言ったのだ「…なぁネズミ、ぼくから何を取ればぼくは“ぼく”じゃなくなる?」と。

どういう過程を経たらその質問に至るのだろう。
たった一瞬前まで小ネズミ達に喜劇を読んでいたのに何故そんな質問が思い浮かぶんだ。
心底意味がわからない。

「今度は哲学の真似事か?」

スープをかき混ぜる手を休めずに皮肉る。
紫苑はソファに腰かけてじっとこちらを見つめてくるがあの馬鹿みたいに真っ直ぐな目を見ると厄介なので放っておく。
やっていられるか。
精神論なんかあてもなくてやっていられない。
大切なのは後でも先でもなく“今”だ。
ここは今生きる事さえ困難な所。
哲学なんていうものはお貴族様が嗜む事だ。

「アホらしい」
「君はいつもそう言うね」
「あんたがそう言わせる事をいつも言うからだ」

視界の端に拗ねた様な表情の紫苑が映る。

「思ったんだ。ぼくから骨を抜いたら肉を抜いたら血を抜いたら細胞を抜いたらそれはもうぼくじゃない?」
「…少なくとも人間としたらそれらが抜けたら人間では無いのは確かじゃないのか」
「そりゃあ、全部なくなったら生体活動は無理だろうけど。ただ、死んでもぼくはぼくでいられるよ」
「今度は超常現象まで持ち出す気か?」
「ううん、君がいてくれるから」
「………」

越えた。
何がって理解の範疇をだ。

「意味がわからない」
「珍しいね、ネズミの方がそんな事言うの」
「誰が聞いたって同じ事を言うだろう」
「いやね、ぼくってNo.6にいただろう?」
「あぁ、12歳まではバリバリのエリート様だったな」
「それはネズミに会う前の“ぼく”だよ。けど君に会って、別れて、再会して今の“ぼく”になった」
「………」
「それからここで暮らしてイヌカシや力河さんやカランやリコに会った。それって、ぼくでしょう?」
「あんたが分裂しなきゃ間違いなくあんただな」
「だから君がいなきゃぼくは今のぼくじゃないんだ」

つまりさ、君はぼくをぼくとたらしめる大切な存在なんだよ。
と笑って紫苑は締め括る。

なんだそれは。
結局何が言いたいんだ。

自分から何を取れば自分じゃなくなる?
俺から紫苑を抜いたらおれはおれじゃなくなる‥なんてそんな絵空事は爪の甘皮程も思わないけれど、それでも自分という中に確かに紫苑という存在があるのだという事は認めたって良いのかもしれない。

END.


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