SSS

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“今日はできたら早くに登校して”と明け方一通のメールが来ていた。

差出人は紫苑。

なんの事だかさっぱりだがとりあえずおれはいつもより一時間早く登校した。
いつもは人がぞろぞろと集まりだした頃に登校するので人のいない校舎というのは不思議な感覚だ。
階段を登りクラスへ入ると紫苑は既に席について本を読んでいた。

「おはよう、ネズミ」
「おはよう。明け方のあのメールはなんだよ」

自分の席ではないのだが紫苑の前の席に向かい合う形で向き合う。
静かな動作で本に栞を挟んだ紫苑がゆるりと微笑む。
冷気を微かに含んだ風が頬を刹那撫でた。
もう秋だ。

「ネズミ、ぼくと一緒に逃げてよ」
「は?」

逃げる?
何から?
わからなくてそのまま紫苑を見つめる。
紫苑はすぐに苦笑して言い直す。

「違うな、共犯者になって欲しいんだ。一緒に学校をサボってほしい」

おれまだ眠いのかもしれない。
学年首席様がまさかサボりの片棒を担がせようとしている夢をみている。

「ネズミ、ネズミ?」
「いや、いやいやいやいやいやいや」
「…やっぱり嫌だよね」
「嫌じゃなくて!いや、ちょっと待ってくれ。おれ朝に弱いんだ」
「えっと、一度で良いから学校をサボってみたいんだ」

紫苑の瞳が真摯に揺らぐ。

「理由は…」
「ごめん、言えない」
「…………」

何で、とかわからない。
わからない、わからないけど紫苑が本気なのが伝わる。
そっと机の上に置かれた手に触れると冷たかった。

「…………」
「わかった」

冷たい手をぐっと引き寄せ立たせる。
紫苑は突然の事に驚いて目を見開く。

「逃げよう、紫苑」

あんたが怖くなくなるまで。
おれはあんたと一緒に行くよ。


END.


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