SSS

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Twitterで見かけた花食症ネタに萌えた結果。
ふいんき(あれ?変換できないよ?)話。



いつの頃だったかだんだんと紫苑は食事を摂らなくなった。
本人曰くそれが食べ物に見えなくなったのだと言う。
摂食障害に分類されるものに無食欲症があるのだが紫苑はそうではないのだと苦笑した。
ただ、花が食べたいのだと。

花。
確かに食用としてわずかに使われるがそれでもあくまで見た目を彩るものであり生体維持の為に栄養をとれるかと言われたら難しい。
だけれど彼は目の前に置かれたふわふわのパンや、肉汁の滴るハンバーグや、熱々のスープや、飾り物の様なケーキよりも花を目の前に喉をならした。

そうして今日も、紫苑は花を食べる。
自分と同じシオンと呼ばれる花の茎から花をむしりクッキーでも食べるかの様な手つきで一口、それを噛み千切った。
咀嚼して残りの半分を口へ放る。
またむしり今度は一口でそれを飲み込んだ。
毎回、ぞっとする絵面だ。

「美味しいか?」
「美味しいよ」

ぶちりと音をたててまた花をむしる。
ひらりと花弁が机の上に落ちた。

「あ、溢しちゃった」

それは落ちた花弁に対して正しい表現ではないのだろうが本人からしたらそういうものなのだろう。
紫苑が花を食べる様になってなんとか自分の思う食物を食べさせようとした事もあった。
肉や魚がいやならせめて野菜をと焼いて、茹でて、蒸して、生で、思い付く限りの食材と調理で与えたが紫苑は酷く無感動な顔でそれらをただ機械的に飲み込むだけであった。
おれが余りにも必死だったからだろう、最初は紫苑も最後まで食べきっていたが次第に残す量が増えていった。
ご馳走さまと言われた後に重い声音でごめんなさいと言われる度にまた駄目だったと落胆する。
そんな不毛なやり取りを何度も繰り返し結局紫苑は花しか食べなくなった。
花は食べても葉や茎は好きでは無いらしく食べたり食べなかったりする。
本人曰く葉や茎は付け合わせのパセリみたいな感覚なのだそうだ。
おれからしたら食卓に花があったとしてもそれは花瓶に飾られた観賞用でしかないのでやっぱりわからない。

バラの紅茶とスミレの砂糖漬けを紫苑に出した事がある。
紫苑は雪が降り積もったかの様なスミレの砂糖漬けを物珍しそうにつまみ上げ食し「甘いね」とくすりと笑った。
けれどそれだけだ。
甘いと言ったきりそれにはもう手を伸ばさなかった。

「甘かったからバラの紅茶とあわせて飲んだらちょうど良いね」

紫苑は花を食べて、嘘を吐いた。
結局バラの紅茶もスミレの砂糖漬けもお気には召さなかった。

そうして今日も紫苑は花を食べる。

「美味しいか?」
「美味しいよ」

むしった花が最後の主張の様に芳香を放つ。
甘い匂いに誘われ紫苑に口づけ、絡ませた舌に何故だか甘さを感じた気がした。

END


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